フェニルケトン尿症(PKU)の食事療法
大阪公立大学医学部附属病院栄養部
藤本 浩毅
1.はじめに
フェニルケトン尿症(PKU)とは、アミノ酸の一種であるフェニルアラニン(Phe)をチロシン(Tyr)に代謝するPhe水酸化酵素(PAH)が先天的に低下していることにより、血中Phe値が高値となる疾患です(図1)。血中Phe高値が続くと、知的発達障害、けいれん、メラニン色素欠乏などの症状がみられます。国内の最新のガイドライン(文献1)では、血中Phe値を2~6mg/dL(120~360µmol/L)にすることが目標とされており、この目標値を維持するために、基本的に低たんぱく質食と治療用特殊ミルクの摂取が生涯必要となります。一部の患者においては、PAHの補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4・ビオプテン®)の服薬により、低たんぱく質食を軽減することができる場合もあります。
図1 フェニルアラニンの代謝
2.低たんぱく質食の必要性と実際
Pheは、人の体の中では作り出すことができない必須アミノ酸の一つで、食事のたんぱく質から体に取り入れます。吸収されたPheは筋肉などの体たんぱく質に合成されるとともに、PAHによってTyrに代謝されます。しかしPKU患者の場合は、このTyrへの代謝がなされないため、体たんぱく質に合成されなかったPheが血液中にたまってしまいます。低たんぱく質の食事を行うことで、体内に吸収されるPheを減らすことができ、血中Phe高値を予防することができます。
Phe、自然たんぱく質、たんぱく質の摂取目安量を表1に示します。PKUの食事療法において、“自然たんぱく質”とはPheが含まれているたんぱく質のことをいい、“たんぱく質”とは、Pheが含まれていないたんぱく質(治療用特殊ミルクのたんぱく質)を足した総称として使用します。例えば、10歳男児の場合、Phe摂取量は500mg程度に抑えるのが目標となり、Pheは自然たんぱく質重量の約5%(食品によって異なる)含まれているので、食事から摂取する自然たんぱく質は10g程度に抑えることになります。ただし、1日の目標たんぱく質は50gなので、不足のたんぱく質を治療用特殊ミルクで摂取することになります。
表1 PKU食事療法における栄養素摂取目安量(1日あたり)
国民健康栄養調査(令和元年)では、7~14歳の男児の平均自然たんぱく質摂取量は74gですので、自然たんぱく質10gがどれほど少ないかが想像できるかと思います。卵1個に自然たんぱく質6g、鶏もも肉100gに自然たんぱく質20g含まれていますので、高たんぱく質食品は、ほぼ摂取することはできません。また、自然たんぱく質が少ないイメージのごはん100gには自然たんぱく質2.5g、ロールパン30gには自然たんぱく質3gが含まれています。そのため、ごはんやパンなどの主食に関しても一般の食品を使用せず、低たんぱく質に加工されたごはんやパン、麺などの治療用特殊食品を使用することが基本となります。食事のイメージをまとめると、治療用特殊食品の主食+野菜のおかず+果物という感じになります。実際の食事の自然たんぱく質量がどれくらいになっているのかは、食品成分表や文献2を参考にして計算します。野菜も自然たんぱく質がゼロではなく、ブロッコリー(100gあたり自然たんぱく質5g)や大豆もやし(100gあたり自然たんぱく質4g)など比較的自然たんぱく質が多い食品もあるため、食べる量によっては、自然たんぱく質の目安量を越えてしまう可能性もありますので、野菜であっても摂取量を減らさざるを得ない場合があります。また、幼児期には全体の食事摂取量が少ないことで、血中Phe値が低下しすぎる場合があります。そのような場合には、豆腐や卵などを少し足して、自然たんぱく質を確保することもあります。表1の自然たんぱく質量はあくまで参考として、血中Phe値をみながら、摂取自然たんぱく質量を調整します。
低たんぱく質の食事療法を実践していくには、自然たんぱく質量を把握する力が必要となります。食材の種類が少ない離乳期から食品の重量を計り、自然たんぱく質を計算することで、計算の方法が身につき、食材の種類が増えてきても対応しやすくなります。
3.治療用特殊ミルク
PKUの治療用特殊ミルクには、フェニルアラニン除去ミルク配合散(以下除去ミルク、雪印)とフェニルアラニン無添加総合アミノ酸粉末(A-1、雪印)、低フェニルアラニンペプチド粉末(MP-11、森永)の3種類があります(表2)。
表2 治療用特殊ミルクの組成(100g中)
除去ミルクは、たんぱく質、脂質、炭水化物がバランスよく配合されており、ミネラルやビタミンも含まれ、乳児期のミルクとして使用します。離乳期以降においても、低たんぱく質食を実践することで不足してくるエネルギー、たんぱく質、ミネラルやビタミンを、除去ミルクから摂取する必要があります。また、PKU患者ではPheを代謝できずTyrが不足しがちであるため、除去ミルクを摂取することはTyrを補充するという役割も担っています。表1の除去ミルクの摂取目安量を参考にしてください。除去ミルクの重要性がわかる症例として、除去ミルクの摂取が少なかった患者が、自然たんぱく質摂取量はほぼ変化がなかったにもかかわらず、除去ミルクの摂取量を増やしてしっかりと飲むことで、高値だった血中Phe値が低下したことがありました。除去ミルクをしっかりと飲むことは、血中Phe値を良好に維持するために大変重要なことです。
A-1とMP-11は、除去ミルクだけでは不足するたんぱく質を補うために使用され、表1に示したたんぱく質を確実に摂取できるように追加します。また、活動量が多い運動部に入ったり、妊娠期などにも、たんぱく質の必要量は増えるので、A-1やMP-11を追加する場合があります。成人のPKUの方の場合、除去ミルク100~200g、低フェニルアラニンペプチド粉末20~40gを1日に摂取しているという報告もあります。A-1とMP-11にはたんぱく質以外ほとんど入っていませんので、除去ミルクの代わりにはなりません。あくまでも除去ミルクを摂取したうえでの、A-1とMP-11であると考えてください(文献3)。
4.その他の食事療法の注意点等
図2に日本人PKU患者のビタミン・ミネラルの摂取割合を示します。治療用特殊ミルクを摂取することで、ほぼ必要量を満たすことができていますが、セレン(Se)とビオチンの摂取が明らかに少ない状況です。これは、治療用ミルクにほとんど配合されていないため起こってしまっています。ミルクに添加できればよいのですが、簡単に追加変更することができないため、現状では、他の方法で摂取するしかありません。ビオチンは、サプリメントもありますし、薬剤処方にて対応する場合もあります。セレンは、薬剤がありませんので、サプリメントにて対応してもらうことになります。PKU患者で血中セレンを測定していますが、ほとんどの患者で正常値以下の値となっています。そのため、セレンの摂取を推奨しますが、セレンには上限量がありますので、当院では粉末のセレン100µgを週に2回など、年齢に合わせて過剰摂取にならないように調整して摂取してもらっています。
図2 ビタミン、ミネラルの摂取割合
(青色が食事からの摂取、オレンジ色が治療用特殊ミルクからの摂取)
海外では除去ミルクの代わりにGlytactinシリーズ(味の素キャンブルック社)が利用されています。Pheの含有量が少ないたんぱく質(グリコマクロペプチド)を用いることで、アミノ酸特有の味が軽減され飲みやすい商品になっています。また、セレンやビオチンもしっかりと配合されています。除去ミルクの摂取がどうしても増やせない場合には、一度検討してみてもよいのではないかと思います。ただし、自費購入となり、保険適用はありません。ご興味のある方は味の素キャンブルック社(https://www.cambrooke.com/)かPKU親の会(https://www.japan-pku.net/)にお問い合わせください。
5.さいごに
PKUの治療の根本は食事療法であり、食事療法によってコントロールできることは明らかです。そして、食事療法に重要なのは継続です。低たんぱく質ごはんなどの治療用特殊食品も20年前に比べてはるかにおいしくなり、またさまざまな種類の食品が出回るようになったことで、食事療法が実践しやすくなりました。とはいっても、やはり食事は毎日のことで、重荷に感じてしまうこともあると思います。少しでもその重荷が軽くなるように、食事療法が継続できるように、そしてよりよい生活を過ごせるように、これからもサポートしていけたらと思います。
【文献】
1)日本先天代謝異常学会:新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019.診断と治療社.2019
2)特殊ミルク共同安全開発委員会第二部会(編):2016年度改定 食事療法ガイドブック アミノ酸代謝異常症・有機酸代謝異常症のために フェニルケトン尿症(PKU)の食事療法.恩賜財団母子愛育会.2016
http://www.boshiaiikukai.jp/milk05.html
3)大和田操, 佐藤智英他:成人PKUに対する登録特殊ミルク(A-1およびMP-11)の役割.特殊ミルク情報57号.恩賜財団母子愛育会.2022
4)Okano Y, et al. Nutritional status of patients with phenylketonuria in Japan, Molecular Genetics and Metabolism Reports 8. 2016
【PKUに関連する過去の記事】
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