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JaSMIn通信特別記事No.5

作成日:2017.04.10

フェニルケトン尿症の新しい治療薬(ビオプテン®)の最近の状況について

大阪市立大学 大学院医学研究科 発達小児医学分野
新宅 治夫

 

はじめに

 2008年7月にビオプテン®(塩酸サプロプテリン/Sapropterin ‌Hydrochloride)がビオプテリン反応性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症(BH4反応性PAH欠損症:ここでは簡単にBH4反応性PKUと略します)に対しても追加で承認されました。フェニルケトン尿症でもこのビオプテン®の内服で血中フェニルアラニン値(血中Phe値)が一定以上低下する場合には、この治療薬の使用が健康保険で認められるようになりました。この治療薬は、食事療法と併用することでフェニルアラニン(Phe)制限食を緩和あるいは中止することができるため、患者さまには大変良いニュースであったと思います。しかしながら、この治療薬は非常に高価であり、保険収載され高額医療が適応されるとしても自己負担額が大きいため、治療を断念せざる得ないこともありました。2016年7月からPKUが指定難病に認定され、重症度の判定に高額医療が適応されるようになったことから、この治療を希望される患者が増えてきています。このような状況ですが、薬が使えるようになるための診断と、実際の治療における使用法については十分に知られていないのではと思われます。そこで、この治療薬ビオプテン®の最近の状況を述べてみたいと思います。

 

診断と治療

 ビオプテン®の適応疾患は、①BH4欠損症と②BH4反応性PAH欠損症(BH4反応性PKU)であります。今回は②のBH4反応性PAH欠損症の診断と治療について以下に簡単に説明いたします。

 BH4反応性PKUを診断するためには、高Phe血症の中でビオプテリン(BH4)代謝に異常がなく、BH4経口負荷試験で血中Phe値が一定以上低下することを証明する必要があります。日本先天代謝異常学会の専門委員会では、通常のBH4・1回負荷試験において血中Phe値が負荷前値に比べ20%以上低下した患者、あるいはBH4・1回負荷試験でBH4反応性が否定された患者にさらにBH4・1週間投与試験を実施し血中Phe値が負荷前値に比べ30%以上低下した患者をBH4反応性PKUと診断することとしています。

 特殊ミルク共同安全開発委員会の専門委員会が定めた暫定治療基準によると「普通食下、BH4を原則として1日10mg/kg(分3)を投与し、臨床症状等の観察を行いながら、血中Phe値に応じて治療方法を検討し、1日20mg/kgのBH4投与によっても治療目標とする血中Phe値に到達しない場合は、Phe制限食を併用する」としています。これは、BH4の投与量を増やすことで血中Phe値を低下させることができることがわかっているからです。もし、BH4の投与量が1日10mg/kgで血中Phe値が十分にコントロール範囲まで低下しない場合は、1日量を20mg/kgまで増量してみることが推奨されています(図1)。ただし、BH4の1日の投与量の上限は20mg/kgと決められていますので、それでも血中Phe値を下げる必要がある場合にはPhe制限食を併用しなければなりませんが、実際にはBH4の投与量は15~20mg/kgでかなりの患者で食事療法無しで血中Phe値のコントロール可能であると考えられます。

 また、安全性の面では全ての年齢で臨床上特に問題となる症状や臨床検査値の異常な変動等の有害事象は認められなかったと報告されていますので、最近では4歳未満の乳幼児にもビオプテン®による治療が推奨されています。特にBH4・1週間投与試験(BH4:20mg/kg/日)でBH4反応性PKUと診断された場合には、BH4を1日10mg/kgに一旦減量して開始するのではなく20mg/kgの投与量で維持しながら、徐々に減量することが勧められます。

おわりに

 このように食事療法に代わってBH4の内服による薬物治療がPKUの新しい治療法として世界的に注目されています。従来唯一と考えられていた食事療法に対して薬物治療の選択肢が新たに加わることにより、Phe制限食を嫌って血中Phe値をコントロールすることが困難な患児もBH4を併用することで症状を改善できる可能性が示されています。さらに、BH4の内服でPhe制限食を緩めることができたり、全く普通の食事ができるようになれば、治療に対するコンプライアンス※は著しく改善し、患児だけでなく保護者のQOL(quality of life/生活の質)も向上することが期待されます。

 乳幼児期のBH4療法は、世界に先駆けて日本で最初に始められた画期的な治療法1)であり、厳密なコントロールが要求されますが、必須の治療法と考えられます。4歳未満の安全性2)についても十分なエビデンスデータが得られているため早期からの使用が求められています。

※コンプライアンス:要求・命令などに応じること、人の願いなどを受け入れること。医療では患者さんが医師の指示通りに、きちんと薬を飲み、治療に取り込むことをいいます。薬の効能を最大限に引き出すためには、正しい用法用量で服用することが重要ですので、コンプライアンスは治療効果に対して大事な要素と言えます。

 

文献

1) Kure S,et al.: Tetrahydrobiopterin responsive phenylalanine hydroxylase deficiency. J Pediatr 135: 375-378,1999.

2) Shintaku H, Ohura T: Sapropterin is safe and effective in patients less than 4-years-old with BH4-responsive phenylalanine hydrolase deficiency. J Pediatr. 165(6):1241-4. 2014

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JaSMIn通信特別記事No.5(新宅先生)