ライソゾーム病のシャペロン療法:開発の現状と課題
鳥取大学研究基盤センター
檜垣 克美
1. シャペロン療法とは
ライソゾーム病に対するシャペロン療法(または、薬理学的シャペロン療法とも言われます)は、飲み薬として服用が可能な低分子薬を用いた治療法で、すでに患者に使われている酵素補充療法などの代替療法として、または、現状で治療法のない疾患に対する新規治療法として開発が進められています。例えば、ファブリー病のシャペロン療法(ガラフォルド)は前者の例で(詳細はJaSMIn通信特別記事 No.60で小林正久先生が紹介されています)、また、私たちが進めているGM1-ガングリオシドーシスは後者の例になります。
シャペロン療法の原理を説明します(図1)。一般に、ライソゾーム酵素は、正常ライソゾーム酵素をコードする遺伝子を元に小胞体で合成(転写・翻訳)され、ゴルジ体を経てライソゾームに運ばれて機能します。一方で、患者さんの細胞の中では、疾患の原因となる変異をもつ遺伝子から変異酵素が合成されます。この変異酵素は正常酵素にくらべて不安定で、多くは分解されてしまい、ライソゾームへ運ばれません。シャペロン療法では、変異酵素に結合し酵素を安定化させる働きをもつ化合物(シャペロン)を作用させることで、変異酵素はライソゾームまで運ばれ、酵素の働きを活性化することで治療効果を得ることができます。この原理は、鈴木義之先生たちにより世界で初めて示されたものです。
図1 ライソゾーム病に対するシャペロン療法の原理
シャペロン療法については、過去のJaSMIn通信特別記事の中でも掲載されています。
2. シャペロン療法の開発の現状と課題
現段階で、日本で可能なシャペロン療法はファブリー病のガラフォルドです。しかし、シャペロン療法は原理的に他のすべてのライソゾーム酵素に応用が可能と考えられており、ゴーシェ病、ポンペ病、ムコ多糖症、GM1-/GM2-ガングリオシドーシスやα-マンノシドーシスなどのライソゾーム病に対して有効性を示すシャペロン薬候補化合物の基礎開発が進んでいます。シャペロン療法は、低分子物質を用いた治療薬であることから、飲み薬として服用が可能で、また、脳など、従来の酵素補充療法の治療法では効果が得にくい病態に対しても有効性を発揮する点が期待されています。一方で、シャペロンが結合できない型(変異型)の酵素に対しては効果が見込まれません(変異型特異性)。また、細胞や動物を用いた試験から、治療効果が得られる濃度が厳密に規定されており、より多く摂取した場合には副反応が見られる例も報告されています。現在、これらの問題点を克服するためにより治療効果が高く、高濃度で服用しても副反応を示さないような新しいタイプのシャペロン療法の開発が進められています。
3. ライソゾーム病の治療法の展望
ライソゾーム病の治療法は、酵素補充療法、造血幹細胞移植、遺伝子治療法、基質合成抑制療法およびシャペロン療法などが用いられています。酵素補充療法、造血幹細胞移植、遺伝子治療法は、原理的に正常酵素を体外から補うことで治療効果を得ます。また、基質合成抑制療法では、疾患の原因となる基質の合成を抑えることで治療効果を得る方法です(図2)。このように、それぞれ治療法は作用する経路が異なることから、併用することで相乗的な治療効果を発揮することが基礎研究で示されています。例えば、アミカス社はポンペ病に対し、酵素補充療法とシャペロン療法の併用療法の開発を進めています。従って、個々の治療法の開発を進めることはもちろん重要なことですが、将来的には、異なる治療法を組み合わせることで、よりすぐれた治療効果を発揮する新しい治療法を確立することも重要になると思われます。
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