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JaSMIn通信特別記事No.72

2023.03.10

V型糖原病(McArdle病)

 

浜松医科大学 浜松成育医療学講座

福田 冬季子

 

 糖原病は、グリコーゲン(糖原)の分解や合成に関与する酵素(一部の疾患ではトランスポーター[輸送体])の欠損や低下によって引き起こされます。「糖原病」にはそれぞれの特徴をもつ14種類以上の疾患が含まれています。JaSMIn通信特別記事では、これまで糖原病全般について(No.23)、糖原病I型について(No.48)記事にしました。今回は筋型糖原病である糖原病V型(McArdle病)について記載したいと思います。

 

1.V型糖原病(McArdle病)はどんな病気ですか?

 V型糖原病(McArdle病)は、骨格筋の細胞内のグリコーゲンを分解する筋ホスホリラーゼという酵素の働きが欠損または低下するために起きる遺伝性の病気です。骨格筋細胞のグリコーゲンが分解されることにより、筋収縮のために必要なATP(アデノシン3リン酸)というエネルギー分子が産生されますが(図)、V型糖原病では嫌気性解糖によるATPが産生されないために、筋症状が出現します。

 

 

図 骨格筋内のグリコーゲン分解経路

 

2.どんな原因で発症しますか?

 筋ホスホリラーゼは、骨格筋内のグリコーゲンを分解する経路にあり、グリコーゲンをグルコース-1-リン酸に分解するグリコーゲン分解の第1のステップにおいて、グリコーゲンをホスホリラーゼ限界デキストリン(PLD)に分解する酵素ですが、この酵素の働きが障害されると、嫌気性(アネロビック)な状態でのATP供給が不十分になり、筋症状が出現します。

 PYGM遺伝子の2つのアレル(対立遺伝子)にそれぞれ疾病の原因となるバリアントが存在します。常染色体潜性(劣性)遺伝性の疾患です。

 

3.どのような症状がありますか? 

 運動誘発性の筋症状が見られます。運動開始数分後に疲労感(運動不耐性)を感じ、運動中に脱力や、筋痛、有痛性筋れん縮(筋肉がつった時のような痛み)を経験します。重量挙げや長時間の強度の運動といった嫌気性運動が、これらの筋症状の引き金となります。

 また、V型糖原病(McArdle病)では、運動不耐症状が出現した後にさらに嫌気性の運動を続けるうちに、それらの症状が突然回復し、再び運動を続けることができるようになる「セカンドウインド現象」が見られます。

 

4.検査ではどのような所見がみられますか?

 一般的な血液検査では、常にクレアチンキナーゼ(CK)値が高値となります。CKは筋肉に多く存在する酵素です。また、通常は嫌気性の筋運動で乳酸が上昇しますが、V型糖原病(McArdle病)では嫌気性運動で血液中の乳酸が上昇しないという特徴があります。

 

5.注意すべき症状は何ですか。またどのように対応すればよいでしょうか?

 V型糖原病(McArdle病)では、重量挙げなど嫌気性の運動や長時間の激しい運動の後に、横紋筋融解(骨格筋の破壊)を経験することがあります。運動誘発性の筋症状に加え、褐色の尿が見られます。この褐色尿はミオグロビン尿です。筋組織が破壊された結果、筋組織の構成タンパクであるミオグロビンが筋肉から血液中に放出され、腎臓で濾過されて尿中に排泄されるため、尿が褐色になります。血尿と間違えられることがありますが、ミオグロビン尿は多くの筋肉が破壊されたサインですので、注意が必要です。横紋筋融解症が起きると、血液検査での血清CK値が著明に高値になります。

 ミオグロビンは腎臓にダメージを与え、腎機能障害や急性腎不全が起きることがあります。腎機能障害に対して、大量の点滴や尿をアルカリ性にする対応をします。急性腎不全に至った場合には、血液透析などを行います。

 

6.どのように治療しますか

 日常生活において、重量挙げなどの強い等尺性の運動や長時間の強度の運動を避けるようにします。等尺性の運動とは、関節を動かさないで筋肉を収縮させる運動で、嫌気性(アネロビック)な代表的な運動です。

 一方、強度の強くない有酸素性(エアロビック)な運動を勧める研究結果が報告されています。

 

 

7.長期的な経過について

 小児期に運動不耐症状に気づくことがほとんどですが、診断される年齢は様々です。V型糖原病(McArdle病)は生命予後には影響しないのですが、約50%の方は横紋筋融解症を経験するとされています。運動誘発性の筋症状が特徴で、初期には運動時以外の筋症状はありませんが、時間の経過とともに、運動時以外にも筋力の低下がみられるようになることも少なくありません。

 

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JaSMIn通信特別記事No.72(福田先生)