糖原病
浜松医科大学 小児科学講座 福田冬季子
糖原病はグリコーゲン(糖原)の分解または合成に関与する酵素(一部は輸送体)の遺伝的な異常によって引き起こされる病気です。糖原病と一口に言っても、ひとつの病気ではありません。10種類以上の糖原病があります。
1. 糖原病の糖原(グリコーゲン)とはなんですか?
グリコーゲンは、ブドウ糖がたくさんつながって枝分かれした構造で、肝臓と筋肉に主に貯蔵されています。肝臓に貯蔵されたグリコーゲンは、空腹時には分解されて血糖値を保つ働きをします。筋肉に貯蔵されたグリコーゲンは、運動時、とりわけ無酸素運動の際に分解されて、運動のエネルギー源となります(図1)。
肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンはグリコーゲンのままでは、血糖を保ったり、運動のエネルギー源になったりすることができませんし、肝臓や筋肉から外にでることができません。肝臓でグリコーゲンからブドウ糖(グルコース)を放出したり、筋肉のグリコーゲンからATPというエネルギーを産生したりするためには、酵素による一連の化学反応(代謝)が必要です。
2. 糖原病はどんな病気ですか?
グリコーゲンを代謝する一連の化学反応に必要な酵素がうまく働かないためにおきる病気です。グリコーゲンが主に肝臓と筋肉に貯蔵されることから、
糖原病には
肝臓に症状がみられる肝型
筋肉の症状がみられる筋型があります。
肝臓と筋肉の両方に症状がみられる肝筋型もあります。
(1) 肝型糖原病
糖原病1型(von Gierke 病、グルコース 6- ホスファターゼ欠損症)
糖原病3型(Cori–Forbes 病、グリコーゲン脱分枝酵素欠損症)
糖原病6型(Hers病、肝ホスホリラーゼ欠損症)
糖原病9型(ホスホリラーゼキナーゼ欠損症)
が主な肝型糖原病です。肝臓に分解されないグリコーゲン(3型ではPLD(後述))が蓄積してしまうため、肝臓が腫大して、おなかが膨らんだ状態になります。
また、空腹時にグリコーゲンの分解によるブドウ糖の産生がうまくできないため、低血糖をおこします。低血糖の程度が強いと、意識が障害されたり、けいれんをおこしたりすることもあります。糖原病1型ではグルコース-6-リン酸からグルコースを産生する過程が障害されるため、低血糖の程度は肝型糖原病の中で、最も強くみられます。これらの肝型糖原病では低身長も見られます。
(2) 筋型糖原病
糖原病5型(McArdle 病、筋ホスホリラーゼ欠損症)
糖原病7型(垂井病、ホスホフルクトキナーゼ 欠損症)
に代表とされる筋型糖原病では、無酸素性の運動時にグリコーゲンの分解によるエネルギー(ATP)の産生がうまくいきません。そのため運動を持続して行うことができない「運動不耐」の症状や、運動時に痛みを伴う筋けいれんが見られます。
(3) 肝筋型糖原病
糖原病3型は、肝筋型の代表的な疾患です。多くの方に筋の症状も生じます。
糖原病3型の筋症状は、糖原病5型や糖原病7型と違って、運動している時に起こるのではなく、継続して運動発達遅滞や筋力低下がみられます。この症状は、筋肉内にグリコーゲンの分解が中途でとまった状態の“ホスホリラーゼ限界デキストリン(PLD)”が多量に蓄積していることによって生じると考えられます。
糖原病3型では、PLDは肝臓と筋肉だけでなく、心臓の筋肉にも多量に蓄積するため、心臓の筋肉が肥大する「心肥大」とそれによる心機能の低下がみられます。
3. どのような原因で発症しますか?
グリコーゲンの代謝に関わる酵素をコードする遺伝子の変化が原因となって病気が発症します。それぞれの糖原病やその亜型によって、原因となる遺伝子が異なっています。
代表的な糖原病の原因遺伝子は、
糖原病1型(1a型 G6PC1遺伝子、1b型 SLC37A4遺伝子)
糖原病3型(AGL遺伝子)
糖原病6型(PYGL遺伝子)
糖原病5型(PYGM遺伝子)
糖原病7型 (PFKM遺伝子)
糖原病9型(PHKA2遺伝子、PHKB遺伝子、PHKG2遺伝子、PHKA1遺伝子)
です。
4. 遺伝について教えてください。
糖原病では、糖原病9型(9a型)の多くとホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)欠損症は、X連鎖劣性の遺伝をします。そのほかの1型、3型、6型、5型、7型糖原病は常染色体劣性遺伝をします。
X連鎖劣性の遺伝をする糖原病では、女性保因者のこどもは男児では50%で患者に、女児では50%で保因者になります。男性患者のこどもは、男児の場合は患者にはならず、女児では保因者になります(図2)。
常染色体劣性遺伝をする糖原病では、患者さんの両親は多くの場合保因者で、患者さんの弟や妹が病気になる確率はそれぞれのこどもについて1/4、症状はないが保因者となる確率は1/2、保因者でも病気でもない確率は1/4となります(図3)。
図3.常染色体劣性遺伝
5. 診断はどのようにしますか?
糖原病の診断は、最終的には、酵素活性の低下を証明すること、または遺伝子解析によって診断します。
6. どのように治療しますか?
(1) 肝型糖原病
糖原病1型では、低血糖を予防するために、高炭水化物の頻回の食事療法が中心となります。乳児期には糖原病用フォーミュラを2~3時間ごとに摂取します。1歳以降では、3回の食事に加えて、空腹の時間が3~4時間以内になるように捕食をします。寝る前と就寝後3~4時間後にもコーンスターチや糖原病用フォーミュラを摂取するなどして、夜間の低血糖を予防します。夜間の低血糖を予防するために、糖原病用フォーミュラの経管栄養を行うことも選択肢のひとつです。ショ糖、果糖、乳糖、ガラクトースの摂取は制限されています。
コーンスターチは、ゆっくり分解されグルコースがゆっくり外れるので、血糖を長時間保つことができるため、糖原病の治療に用いられます。加熱しないで摂取します。
糖原病3型でも、低血糖を予防するために血糖を検査しながら頻回の食事を摂取しますが、糖原病1型のような高炭水化物食では、かえってPLDが蓄積してしまうと考えられるため、注意が必要です。
食事療法の他に、高脂血症や高尿酸血症に対する薬物療法も行われます。
肝型糖原病では、体調が悪いとき、特に嘔吐をしたり、下痢をしたりして、経口摂取がままならないときにはブドウ糖の点滴が必要になることがあります。
(2) 筋型糖原病
糖原病5型や7型など、運動によって筋症状が起きる糖原病では、重量挙げなどの強い運動をしないようにします。茶褐色の尿がでるときには、横紋筋融解症をおこしている可能性が考えられます。横紋筋融解症では、腎臓の働きが悪くなることがありますので、必要に応じて点滴などの治療を行います。
7. 糖原病における課題にはどんなことがありますか?
糖原病の経過は、糖原病の種類によって様々です。1型では、肝臓に腺腫が生じる場合があること、腎機能の低下がみられることがあること、3型では心臓のはたらきが低下することがあることなどが課題となっています。
現在は糖原病の治療は食事療法が主ですが、核酸医療や遺伝子治療などの研究もおこなわれています。新しい治療法が実際の治療として用いられるためには、まだ克服すべき様々な課題がありますが、今後の治療法の発展が期待されます。
全文PDFは以下からダウンロードできます。
JaSMIn通信特別記事No.23(福田先生)