ムコ多糖症II型の中枢神経症状に対する新規治療法の開発(続報)
~ヒュンタラーゼ脳室内注射液 15mg 承認~
国立成育医療研究センター臨床検査部
奥山 虎之
ムコ多糖症II型は、イズロネート-2-スルファターゼというライソゾーム酵素の働きが悪くなることにより、体中の細胞の中にヘパラン硫酸とデルマタン硫酸というムコ多糖が蓄積する先天性の疾患です。ムコ多糖症II型の約70%の患者さんに、精神運動発達遅滞や退行があります。
標準的な治療法は酵素補充療法です。イズロネート-2-スルファターゼを製剤として定期的に点滴静注する方法です。血管内に入った酵素は、体中をまわり酵素を供給し治療効果を発揮しますが、脳内の血管は特殊な構造を持っており、この方法では脳内に酵素は送り込むことはできません。そのため、現在広く行われている酵素の点滴静注法では、精神運動発達遅滞や退行を予防したり治療することはできません。
この問題を解決するために、血管とは別のルートで、脳内に酵素を送り込めないかと考え、脳室と呼ばれる場所に酵素製剤を投与することを考えました(過去の記事もご参照ください)。図のように、脳脊髄液リザーバと呼ばれる医療器具を装着し、この器具を利用して酵素を定期的に投与します。国立成育医療研究センターと大阪市立大学病院で6名のムコ多糖症II型の患者さんにこの治療を行いました。その結果、神経細胞に毒性があるヘパラン硫酸の濃度が急激に低下するのが観察されました。さらに、多くの患者さんで、持続的な発達年齢の増加が観察されました。3年間、この治験は行われましたが、心配された脳内の細菌感染症も発症することはありませんでした。治験の詳細な結果については、英文論文でも報告しましたので、ご興味のある方はぜひご覧ください1)。
これらの結果から、2021年1月22日に日本でこの薬剤の承認を取得することができました。販売開始は、2021年4月になりますが、精神運動発達遅滞や退行に悩むムコ多糖症II型の多くの患者さんに試していただきたい新しい治療法です。
この治療法は、日本で開発されました。現時点では、日本でのみ使用できる治療法となります。この治療法に関心のある方は、以下にお問い合わせください。
<問い合わせ先>
国立成育医療研究センター臨床検査部
奥山 虎之
<発表論文情報>
1)Joo-Hyun Seo, Motomichi Kosuga, Takashi Hamazaki, Haruo Shintaku, Torayuki Okuyama. Impact of intracerebroventricular enzyme replacement therapy in patients with neuronopathic mucopolysaccharidosis type II. Mol Ther Methods Clin Dev. 2021 Feb 27;21:67-75.