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JaSMIn通信特別記事No.26

作成日:2018.12.18

尿素サイクル異常症の治療の変遷と今後の展望について

 

熊本大学大学院 生命科学研究部 小児科学分野
松本志郎

 

1.はじめに

 最近、県内外からセカンドオピニオンなどで来院される尿素サイクル異常症の患者様から治療薬について説明を求められることが増えました。薬の種類が増えて、患者様の選択肢が増えている証拠かと思いますが、今回の記事では、患者様からの治療薬に関するご質問や疑問について、情報を共有できればと思います。

 

2.尿素サイクル異常症とは

 尿素サイクル異常症は、タンパク質を分解する過程で生じるアンモニアを解毒するための解毒酵素が生まれつき弱いために、アンモニアが解毒できずに体内にたまることが特徴です。そのため、治療はアンモニアを減らすことが中心となります。図1に治療方法の概略を示します。

 


図1.治療の変遷

 

(1)原因となるタンパク質の制限(特殊ミルク治療:S23ミルク)

 ミルクや食事からのタンパク質の制限をすることでアンモニアを減らす治療です。ミルクや食事からのタンパクを減らすと、結果的にカロリーが不足しますので、カロリーを補うためにタンパクを除去した特殊なミルクが使用されます。このような特殊ミルクは、特殊ミルク協会を介して、各乳業メーカー(雪印乳業、雪印ビーンスターク、雪印メグミルク、明治乳業、森永乳業など、順不同)から供給されています。JaSMIn通信特別記事No.22(伊藤哲哉先生)に記載されていたように、無料で供給されている陰には乳業メーカーが負担されている現実があり、この費用が増し、乳業メーカーが負担を担いきれなくなることが心配されています。このような大切な供給システムが、問題にならないように学会や国の担当者らと協議が重ねられています。

 

(2)アンモニアの是正

 アンモニアを下げるためには、元々の病気の原因でもある尿素サイクルを活性化する方法と、尿素サイクル以外の代謝を利用する2つの方法があります。図2に記載したように、尿素サイクルを活性化する薬としては、アルギニン製剤(製品名:アルギU: EAファーマ)、カルグルタミン酸(製品名:カーバグル:レコルダティ・レア・ディシーズ・ジャパン)、シトルリン(特級試薬:連絡先 日本先天代謝異常学会 薬事委員会 シトルリン供給事務局より供給、e-mail: pediat@kumamoto-u.ac.jp)が使用されています。他の代謝経路を利用するものとしては、安息香酸ナトリウム(特級試薬として自費購入)、フェニル酪酸ナトリウム(製品名:ブフェニール:オーファンパシフィック・ジャパン)が使用されています。

 


図2.尿素サイクルの概略

 

(3)血液透析治療

 血液透析が生まれたばかりの赤ちゃんにも安全に効率よく実施できるようになったことが、このご病気のお子様を助けられるようになった大きな要因と考えられています。ただし、生まれたばかりのお子さんに透析をする技術は、どこでも簡単に受けられるものではなく、実施できる施設が限られています。また、技術的には実施できる施設でも、代謝の専門家がいないために管理ができない場合があるなどの問題もありました。このような問題ができるだけ解決されるように、日本先天代謝学会が中心となり、ガイドラインや診断施設を公開するなどサポートがなされています。

 

(4)肝臓移植治療

 肝臓移植は、透析治療と同様にこのご病気の治療に大きな良い影響を与えたことが報告されています。図3に示したように、特に長期の生存率を改善し、神経学的な後遺症も改善していることが報告されています。

 

図3.肝移植後の効果

 

3.新しい治療薬法(国内で将来利用できる可能性がある治療)


(1)グリセロールフェニル酪酸(製品名;RAVICTI)

 液体の飲み薬で、効果は先に述べましたフェニル酪酸ナトリウムと同じ作用で効果を示します。フェニル酪酸ナトリウムとの違いは、液体の量が少なくて飲みやすいこと、塩分が少ないこと、とされています。米国で承認を受けていますが、日本では承認されていません。

 

(2)フェニル酪酸(製品名:Pheburane)

 これもフェニル酪酸による作用でアンモニアを解毒します。他の薬との違いは錠剤で表面を糖でコーティングしてあるので、飲みやすいという点です。ヨーロッパで認可されて使用されていますが、日本では承認されていません。

 

(3)安息香酸ナトリウム・フェニル酢酸ナトリウム配合剤(製品名:Ammonul)

 安息香酸ナトリウムとフェニル酪酸ナトリウムを一緒に混合した注射製剤です。急性期の重症発作の時に活躍していますが、日本人に使用する場合には、肝障害に注意が必要です。欧米では認可を受けており、日本でも2018年3月に武田医薬品工業が日本での共同事業契約を結んだことが報告され、国内で使用できる日が期待されます。

(4)肝細胞移植

 肝細胞を用いた細胞移植治療については、欧米を中心に臨床試験が実施されました。しかし、有効性が示されなかったことから開発は中止されています。現在は、国内で国立成育医療研究センターが研究を続けています。

 

(5)酵素補充療法

 アルギナーゼ1欠損症(高アルギニン血症:図1のARG1)に対する酵素が開発され、現在、米国で臨床試験が開始されています。途中報告では、有効性が示されていて、期待される治療と考えられます。

 

(6)遺伝子治療

 遺伝子治療は期待される治療の一つですが、現時点では動物実験の段階にあります。
 過去にオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTCD)に対する臨床試験が行われましたが、副作用で中断されています。遺伝子治療については、JaSMIn通信特別記事No.9(大橋十也先生)の項もご覧ください。

 

(7)低体温療法

 体を低体温にすることでアンモニアの毒性を軽くする試みがいくつかの施設で研究されています。長期の神経の後遺症を軽減するとの報告もあり、今後注目されます。

 

 最後に、尿素サイクル異常症に対する様々な治療法が世界中で開発されています。以前は、治療困難だった病気であっても少しずつ治療薬が開発され、患者様が本当の意味で救われる時代が来るようにと願います。

 

全文PDFは以下からダウンロードできます。
JaSMIn通信特別記事No.26(松本先生)