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JaSMIn通信特別記事No.78

2023.09.07

先天性GPI欠損症について(2

 

大学大学院医学系研究科小児科

谷河 純平

 

 2年前に初めてJaSMIn通信特別記事の執筆を依頼された時には、私が臨床研究に取り組んでいる、あまり皆さんになじみのない病気である、先天性GPI欠損症(IGD)についてご紹介させて頂きました(特別記事No.53)。今回は治療を中心に、その後わかってきたこと、現在取り組んでいることなどを中心にご紹介させて頂きたいと思います。少々難しい話になってしまいますが、お付き合い下さい。

 

1.ビタミンB6について

 IGDでは、程度の差はありますが、ほとんどの患者さんで知的障がいの合併が認められ、てんかんを合併する方も多く、通常のてんかんの薬で治療しても、十分な効果が得られない方が少なくありません。

 IGDでてんかんになってしまう理由はまだ十分に解明されたとは言えませんが、原因の一つと考えられているのが、ニューロンと言われる脳の神経細胞の中に、ビタミンB6が十分取り込むことができないことです。

 ビタミンB6には、ざっくり説明すると(それでもわかりにくいですが)、神経細胞で働きが強いが、取り込まれにくいピリドキサール(PLP)と、働きは弱いが神経細胞に取り込まれやすいピリドキシン(PL)があります。下の図1にあるように、神経細胞の表面にでている鎖のようなものがGPI(グリコシルフォスファチジルイノシトール)というもので、IGDではこれをうまく作ることができません。通常はGPIという鎖につながれているALP(アルカリフォスファターゼ;図のオレンジの部分)というたんぱく質が、ピリドキサールをピリドキシンに変えてくれて、それが細胞の中に入ると、再び活性型のピリドキサールになり、神経細胞で大事な働きをしているGABA(チョコレートの中に入っていたり、様々な健康食品に入っていて宣伝されているのでご存じの方もいるかも知れません)という物質を作るのを手伝う働きをしています。従って、神経細胞の中にビタミンB6が足りないと、このGABAという、どちらかという神経細胞の興奮のブレーキとなる働きをする物質を作ることができないので、興奮が強くなり、けいれんが起こりやすくなり、てんかんになると言われています。

 

図1 神経細胞へのビタミンB6の取り込み

 

 そこで、活性は低いが、神経細胞に取り込みやすいピリドキシンを大量に投与して、少しでも神経細胞の中のビタミンB6を増やそう、というのが、IGDで行われるビタミンB6(ピリドキシン)大量療法です。この治療では通常ビタミンとしてヒトの生活に必要な何十倍もの量を毎日飲むことになりますが、私たちの臨床研究では、この治療法によって、てんかんを合併したIGDの患者さんの半分以上の方で、けいれん発作の回数を50%以上減らすことができました。ただし、全く効果がなかった方もいたのですが、世界からの報告を見ても、どのような方に効果があり、どのような方に効果がないのかが、現在までわかっていません。

 また、神経細胞にとって大事な物質を補うことになるので、知的な発達についても良い効果があるのではないか、と期待しているのですが、現在までのところ、発達を明らかに改善する、という証拠はまだ得られていません。

 ビタミンB6は私たちの生活に必要なビタミンで、市販のビタミン剤などにも配合されており、基本的には安全性の高いものですが、大量に連日投与するので、副作用の心配もないわけではありません。特に長期に大量療法を行った場合、筋肉が壊れてしまう横紋筋融解や、手や足先がぴりぴりするなどの末梢神経障害と呼ばれる副作用が現れることがあるので、大量療法を行う場合は、これらに関して注意が必要です。

 上記を踏まえると現在のところは、IGDと診断され、てんかんを合併している場合には、ビタミンB6(ピリドキシン)大量療法は試みるべき治療の一つと言えますが、副作用が出現する可能性もあるので、てんかんがない患者様で、発達の改善を期待するという目的では、必ずしもおすすめしにくい状況です。

 

 

2.活性型葉酸について

 ビタミンB6と同様に、GPIがうまく作れないため、様々な物質が細胞に取り込まれないことが予想されますが、その中でけいれんに関係がありそうな物質が、葉酸です。葉酸は、体の中では、赤血球や神経細胞で重要な働きをすると考えられていますが、GPIがうまく作れないと、神経細胞に取り込むことができなくなり、けいれんの原因となる可能性が疑われています。葉酸にもいくつかのタイプがあり、神経細胞で働きやすく、GPIがなくても神経細胞に取り込まれる活性型葉酸(フォリン酸)というものが存在します。私たちは、IGDの患者さんでは脳の中で葉酸が少ないことを見出し、現在活性型葉酸を補充することで、てんかんの治療に効果があるのかどうか、厚生労働省の認可を受けて、臨床研究を行っています。ただし、フォリン酸も通常より多く投与することになり、副作用が出現する可能性もあるので、効果とともに、安全性についても検証しているところです。

 

3.最後に

 ビタミンB6や葉酸に加えて、最近の研究でGPIが欠損すると、その他のビタミン類の取り込みや代謝についても影響を及ぼすことが明らかになりました。これらについて、てんかんへの影響はまだはっきりしませんが、IGDの症状に何らかの関係がある可能性があり、今後更に治療に結び付けていけるよう研究が続けられています。

 また、IGDは、世界的には先天性糖鎖異常症という病気に分類されます。この病気は日本では、これまでCDG(先天性グリコシル化異常症)と呼ばれ別疾患とされてきた稀少疾患ですが、世界的な流れに合わせ、日本でもCDGの研究を行ってきた先生方と一緒の研究グループとして、更に研究が発展しています。次回以降機会があれば、IGD以外のCDGについてもご紹介させて頂きます。

 

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JaSMIn通信特別記事No.78(谷河先生)