先天性GPI欠損症について
大阪大学大学院医学系研究科小児科 谷河 純平
先天性GPI(ジーピーアイ)欠損症(英語の頭文字をとってIGD(アイジーディー)と呼ぶこともあります)は、他の先天代謝異常症と比べると比較的新しく見つかった病気で、医療者の方も含めて、まだまだよく知らない、名前も聞いたことがない、という方が多い病気だと思います。そこで今回は、この病気について説明します。
1.GPIとは
GPIとは、正式にはGlycosylphosphatidylinositol(グリコシルフォスファチジルイノシトール)というものの略語です。GPIとは、私たちの体を作っている細胞と、その表面にひっついて色々な働きをするタンパク質を結びつけている鎖(アンカーとも言います)の働きをしているものです(図1)。この鎖をGPIアンカーと呼び、この鎖で細胞の表面につなぎとめられているタンパク質をGPIアンカー型タンパク質といいます。
図1 GPIアンカー型タンパク質の構造
(大阪大学微生物病研究所籔本難病解明寄附研究部門HPより引用)
2.先天性GPI欠損症とは?
細胞の中では鎖の部分(GPIアンカー)とタンパク質の部分が別々に作られて、鎖とタンパク質が結びついた状態になって細胞の表面にでてきて、様々な働きをしています(図2)。こうした働きの中には、細胞にとって大事な物質を細胞に取り込んだり、他の細胞と情報をやり取りしたりするなどがあり、ヒトの身体を健康に保つためには、とても重要なものが数多く含まれます。GPIアンカー型タンパク質を作るのに27個の遺伝子が関わっていますが、これらに変異があってうまく働かないと、タンパク質が細胞の表面でうまく留まることができなくなったり、タンパク質の働きがうまくいかなくなり様々な異常を引き起こしてしまいます。この状態が先天性GPI欠損症です。
図2 GPIアンカー型タンパク質の生合成と輸送
(大阪大学微生物病研究所籔本難病解明寄附研究部門HPより引用)
3.症状は?
様々な症状が現れることが特徴なのですが、主なものとして発達の遅れやてんかん、少し体が柔らかいなどは多くの方に見られます。その他にも特徴的な顔つき、高アルカリフォスファターゼ(ALP)血症、手の指や爪の異常、難聴、ヒルシュスプルング病と呼ばれる腸の病気や、腎臓の異常、皮膚の異常などがある方もいます。
4.この病気の患者さんはどれくらいいますか?
2006年に初めて報告されてから年々診断がついて患者さんが増えてきていますが、現時点では世界で数百人程度だと考えられます。私たちで把握している範囲では、国内で診断がついている方は50名程度だと思いますが、診断がなかなか難しい病気ですので、実際にはもう少し多くの患者さんがいると思います。
5.診断は?
フローサイトメトリーという血液を使った特殊な検査を行い診断することができます。血液の成分の中の白血球の表面にある、GPIアンカー型タンパク質のうちの一つのCD16の量を測定し、明らかに少なくなっていた場合は先天性GPI欠損症の診断となります。この検査の結果は数日でわかります。最終的にはどの遺伝子の異常かを調べて確定診断を行います。
6.治療について
残念ながら、今のところこの病気の根本的な治療法はありません。ただし、てんかんがある患者さんの中には、ビタミンB6の一種であるピリドキシンを大量に内服するとけいれん発作に有効な方がいることがわかってきました。他にもけいれん発作に有効かもしれない薬剤の候補があり、現在治療効果に関して臨床研究を実施中です。
7.最後に
先天性GPI欠損症は、最近小児慢性特定疾病や指定難病に認められたので様々な医療助成を受けることができるようになりました。また、私たちの施設を中心に患者会を毎年行っていて、全国各地から患者さんやそのご家族が集まる機会があります。昨年はコロナ禍の影響で集まることができませんでしたが、今年度はなんとか工夫して実施できればと考えています。まだ参加されていない方でご興味をお持ちの方は、是非ご参加下さい。
この病気に関する研究で世界的にも中心的な役割を果たしている大阪大学微生物病研究所の籔本難病解明寄附研究部門では、先天性GPI欠損症のHPを作成しています。更に詳しい解説などをみることができますので、下記URLよりご覧ください。
先天性GPI欠損症 ホームページ
http://igd.biken.osaka-u.ac.jp/index.html
また、ご質問がある場合は、上記HP上のお問い合わせ窓口までご連絡下さい。
全文PDFは以下からダウンロードできます。