ウィルソン病患者さま・保護者様からのご質問に関するお答え
東邦大学医療センター大橋病院小児科
清水 教一
先日、JaSMInにご登録いただいているウィルソン病の患者さんまたは保護者の方に、次のようなアンケートを行いました。
これらのアンケートに18名の方から回答をいただきました。ご協力いただきましてありがとうございました。今回のJaSMIn通信特別記事では、患者さんや保護者の方からの疑問に私なりにお答えしたいと思います。なお、質問文は同じ内容や要点をまとめたり、抜粋して記載しましたので、ご了承ください。
Q1.消化器内科肝臓専門の先生に診ていただいていますが、たまにはウィルソン病のことに詳しい別の病院の先生に診ていただくほうが良いのでしょうか? 薬を変えてみるなどの相談を消化器内科の先生にしにくいです。
A1.主治医の先生に、何か相談をしにくい事がある場合や現在の検査や治療に多少なりとも疑問があれば、他の医師に診てもらうということは選択肢のひとつです。ただ、他医師との相談をご自身の医療に生かすためには、主治医ともうひとりの医師が連携をとることが大切です。現在は「セカンドオピニオン」という、他の専門医療機関に相談しに受診をすることが制度としてありますので、それを利用されると良いと思います。
Q2.日本でのウィルソン病患者さんでの最高齢は何歳でしょうか?
A2.私が認識している限りでは、現在の最高齢は60歳代後半(70歳に近い)の方々と思います。怠薬なく治療を続けてこられた方が多いですが、中には以前怠薬をされたり、ちゃんと服薬しなかった時期があった方もいらっしゃいます。ただし、その年齢での「生活の質」は、怠薬なく過ごしてこられた患者様の方が明らかに良好です。
Q3.薬剤の開発で一日一回、もしくは食後のものがあればいいと考えています。現状では可能でしょうか?
A3.残念ながら、現状では1日1回あるいは食後に服用しても大丈夫なウィルソン病治療薬はありません。ただ、ノベルジンは多少食事との時間の関係がルーズになっても治療効果はみられます。
Q4.生命保険には入れるでしょうか?
A4.このご質問に関しては、私の医学知識でお答えできるご質問ではないので、ウィルソン病友の会での議論など、患者様方から伺った知識でお答えさせていただきます。以前は生命保険には入ることができなかったようです。しかし、最近は持病があっても入ることができる保険が出てきており、いくつかの条件はあるようですが(例えば肝硬変になっていないこと等)、入れる保険が出てきているようです。いろんな保険会社から情報を集めることが大切と思います。
Q5.最新の研究や薬剤の開発について知りたいです。
A5.最新の研究といえば、 iPS細胞での基礎研究と新しい銅キレート薬の開発でしょう。理論的にはiPS細胞はどんな組織にも分化させることができるので、肝臓の細胞を作り出すことも可能であり、それを移植する細胞移植医療の開発が期待されています。しかし問題点もあります。それはウィルソン病患者様から作り出したiPS細胞からは、やはりウィルソン病の肝臓ができてしまうことです。なので、iPS細胞の遺伝子異常を修復する技術か、他人のiPS細胞から分化させた細胞を安全・安定に移植する技術の開発が必要です。もう一つは、新しい銅キレート薬の開発です。テトラチオモリブデンというキレート薬の臨床応用が欧米で検討されています。かなり強力なキレート作用を持つ薬剤です。その他に、ウィルソン病と骨粗鬆症や心臓病との関連の調査や研究も行われています。
Q6.肝機能は、いくつ位を維持できていたら良いですか?
A6.むろん、正常範囲(AST、 ALTであれば35以下程度)で維持できるのが理想です。ただ、なかなかそこまで下がらない患者様もいらっしゃいます。その場合は、それまでの経過や画像検査など他の検査所見などと合わせて総合的に判断し、そのまま様子をみるか、治療を工夫するかを判断します。
Q7.コレステロール値が上がるのはなぜですか?
A7.ウィルソン病患者様が血液のコレステロール値が高くなりやすいかどうかは、わかっていません。ウィルソン病と関係ない別の体質的なものと考えられる患者様もいらっしゃいます。
Q8.病気と言われて20年になります。薬(メタルカプターゼ)は飲み続けなければいけないと飲んでいますが、年に何回か血液検査、お腹の超音波検査をする程度ですが…。
A8.状態が安定していれば、この様な検査のペースで良いと思います。薬は生涯服薬し続ける必要があります。
Q9.初めの頃は食事に気をつけていましたが、今は気にする様な事がなくて、少し位なら普通に食べています。
A9.少しくらいなら大丈夫です。ただ、極端に銅の多い食材(代表的なものはレバー)はやはり避けてください。あと、「銅の多いものを食べたな」と思ったら、次の日あたりは銅の少ない食事を意識すると良いと思います。
Q10.現在は小児として治療費助成がありますが、大人になったとき、経済的な理由で、治療を中断しないか不安があります。
A10.「指定難病」の制度があります。申請から認定までが、ちょっと手間がかかるかも知れませんが、認定されれば助成を受けられます。
Q11.幸いにして、症状がでる前に病気が分かり、内服を開始することができたのですが、今後、本人が自分の病気を理解して、内服を自分の力でしていくのが、とても不安です。どう本人(現在小学校6年生)に伝えていけばいいのでしょうか?
A11.ご本人が、自分の病気のメカニズムを理解し、そして治療の必要性と方法を理解することがとても重要です。そのためには、お子様の年齢を考慮し理解できそうな範囲で病気の説明をしていくことが大切になります。主治医にも協力してもらって説明してあげてください。
Q12.兄弟であっても、それぞれ“肝生検”は受けるものでしょうか?
A12.これはケースバイケースです。血液検査と尿検査で明らかにウィルソン病だと分かれば肝生検を行わない場合はよくあります。もちろん、ご兄弟で肝生検を受けておられる方々もいらっしゃいます。
Q13.ずっと怠薬していて、何の薬も飲んでいません。何も飲んでいないのに、血液検査の数値は正常値に近いです。これは一体どういうことなのでしょうか?もしかしたら、次男はウィルソン病ではなかったということでしょうか?
A13.非常に重要なご質問です。まず、申し上げたいことは、逆に本当にウィルソン病だったとすれば、この怠薬は極めて危険です。治療によって検査結果が良くなったウィルソン病患者様の場合、数年以上怠薬しても症状が全くでなかったり検査値がずっと正常だったりすることはありうることです。しかし、そのまま怠薬を続ければ、どこかで必ず再燃しますし、急性の肝不全などの命にかかわるような病状で再燃しかねません。それを防ぐためには、まず治療を再開すること、そして次男の方がウィルソン病かどうか確認することだと思います。ただ、一定期間治療が行われた方がウィルソン病かそうでないかを正確に診断することはとても難しいのです。一番確実なのは診断された時のデータを再度評価することです。もう一つの方法はご兄弟で遺伝子解析を行うことです。残念ながら100%はっきりします、とは言い切れませんが、試してみる価値はあると思います。検討してみてください。
Q14.薬を飲ませなくてもいいのは肝移植しかないのでしょうか? 肝移植した場合、神経の症状はどうなるのでしょうか?
A14.肝移植を行うことによって神経症状が良くなる可能性はあります。ただ、良くなる程度は脳がどれくらいダメージを受けているかで変わってきます。また、残念なことに移植をしても薬は飲む必要があります。もちろんウィルソン病の治療薬は必要ありませんが、免疫抑制剤を生涯のみ続ける必要があります。
Q15.妊娠中の薬の胎児へのノベルジンの影響はありますか?
A15.影響が出るとすると、妊娠後期に胎児への銅の供給が不足してしまうことです。それを防ぐため、妊娠中は月1回は尿検査を行い、尿中銅の値などから銅が不足していないか確認していくことが大切です。
Q16.整形の症状で腰が痛い、側弯などありますが、年をとってから症状が悪化したり、出てくることもありますか? ウィルソン病発症時に出現した脊柱側弯症がどんどんひどくなってきています。腰痛を和らげる方法はありませんか?
A16.最近の研究でウィルソン病患者様は骨粗鬆症になりやすいのではないか、との意見が出ていることもあり、加齢による骨の変形や腰痛などの痛みの出現は危惧されることです。また、実際加齢とともに側弯などの骨の変形が進む患者さんがいらっしゃいます。これを防ぐには、コルセットなどで矯正するか、手術になると思います。整形外科の医師にまめに診てもらうことが大切と思います。
Q17.加齢とウィルソン病の症状についてわかっていることはなんですか? 老齢期にさしかかるような患者についての研究が全くなされていないのではないでしょうか? 年齢と共に病状は変化(悪化)しますか?
A17.別の質問で、現在の最高齢のウィルソン病患者様の年齢をお答えしました。それからもわかるように、老年期のウィルソン病患者様はまだ多くはいらっしゃいません。加齢に伴う症状の変化や合併症に関する研究はこれからの課題です。
Q18.手足のケイレン(コムラガエリ)等が年々増えています。ウィルソン病が関係していますか?
A18.神経症状がなければ関係ないと思います。神経症状がある場合は、それの影響も考えられます。
Q19.ノベルジン50mgカプセル1日3錠服用していますが、ついつい1日1~2錠になります。20歳になりますが薬を飲みたがらず飲ますのに大変です。
A19.全く飲まないよりは少しずつでも飲む方が良いですが、年齢から考えればやはり少ないです。他の質問でお答えしたように、ご本人に病気のメカニズムと治療の必要性を理解していただくことが大切です。
Q20.将来的に完治の可能性はありますか?
A20.少なくとも現在の内科的治療では完治はできません。
Q21.ノベルジン(25)×3回服用していましたが、血清亜鉛値が高いため、1日2回に変更となりました。体重も58キロあるので今の服用量で大丈夫でしょうか?
A21.体重から考えると1日2回では少ないかもしれません。ノベルジンを飲んでいれば血清亜鉛値は高くなるので、私はその値は気にしませんが…。
Q22.ノベルジン服用していて、薬を服用前後一定時間は水以外摂取できないですか? 部活の時にポカリを飲んだりするのはどうでしょうか?日常の食事、飲物の対応で注意するべきことはなんでしょうか?
A22.ノベルジンの場合は、牛乳などの乳製品や繊維質を多く含んだ飲み物(スムージーなど)でなければ飲んでも差し支えありません。また、低銅食はメタルカプターゼやメタライトを服用している時ほど厳密でなくても大丈夫です。銅を1日1.5mgくらいは摂っても大丈夫です。
Q23.就職する時には、勤務先に自分の病気について話さないと行けないでしょうか?
A23.私たち医師の立場としては、きちんと申告していただきたいです。
Q24.薬は、最大だと何日分位の処方が出来るのでしょうか?
A24.実際には患者様の状態や病院の方針があるので一概には言えませんが、保険診療の観点だけから言えば、ウィルソン病の薬は最大90日まで処方可能です。
Q25.一度霜降りになった肝臓が元に戻ることもあるのでしょうか?
A25.根気よく治療していくことで改善していきますが、残念ながら組織が完全に元に戻ることはないと思います。
全文PDFは以下からダウンロードできます。
JaSMIn通信特別記事No.13(清水先生)