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JaSMIn通信特別記事No.65

作成日:2022.07.12

気管切開について

 

大阪大学大学院医学系研究科 小児科学

濱田 悠介

1. はじめに

 今回は気管切開について、記事を書こうと思います。

 気管切開と聞くと、後ろ向きに構える親御さんが多いと思います。病気による症状が進んで、呼吸や咳こみが弱くなったり、うまくものを飲み込みにくくなったりすることで、吸引の回数が増えてきたり、呼吸のサポートが必要になってくると気管切開について考えることになります。気管切開自体は呼吸を楽にするし、よりサポートをしやすくなる反面、吸引回数が増えたり、出血や抜去時の対応などそれまでとは異なる対応をしないといけなくなります。

 実際には、肺炎などで集中治療を受けたものの、気管チューブを肺から抜けなくなり、その流れで気管切開を受けることが多いと思いますが、病気によってはある程度症状を予測して、予定を立てて気管切開をする場合もあります。気管切開自体は病気そのものを治すものではありませんので、よく相談した上で行うことが重要ですが、治療上、長期に人工呼吸器をつけないといけない場合には、気管切開ありきになってしまうことがほとんどです。

 気管切開自体は耳鼻科医や小児外科医が行いますが、その後の管理を誰がするのかは地域や病院によって異なります。今回は、小児科医の立場から気管切開後の管理を中心に記事を書きたいと思います。

 

2. 気管切開の種類

 見た目にはわからないのですが、気管切開には大きく2種類やり方があります。単純に首の真ん中に穴をあけ気管を開ける方法を気管切開といいます。もう一つは気管喉頭分離と言って、喉頭という気管の入り口を塞いだり、喉頭そのものをとってしまう方法があります。それぞれの特徴を表にまとめてみました。

 

表 気管切開と気管喉頭分離の特徴

 

 どちらの方法を選択するかはそれぞれの状況で総合的に考えることになります。気管切開を受けた後に気管喉頭分離となることが多いですが、予定を立てて行える場合には気管喉頭分離を一度に行った方が児の負担も少なく、長期的には良い印象があります。

 

3. 気管切開カヌレなどのデバイスについて

 カヌレもいくつかの会社からさまざまな形状のものが販売されています。その子の状況に応じて、カフの有無や形状・素材など検討する必要があります(図)。カヌレ以外にはレティナなどの気管孔を確保するだけのものやプロボックスという気管喉頭分離術後用のものもあります。

 小児ではカフなしが最も広く使われています。呼吸する力がある程度あり、誤嚥などによる垂れ込みが少ない場合に用いられます。人工呼吸器をしっかり使わないといけない場合や上部からの垂れ込みがある場合にはカフ付きを使います。ある程度体格が大きくなると上部吸引チューブ付きも使えるようになります。

 小児では成長に合わせてカヌレのサイズを大きくしたり、側弯の進み具合に応じてカヌレをオーダーメードしたりと微調整をしていく必要があります。カヌレが合っていないと体動で分泌物が増えてしまったり、吸引がうまくいかなくなったり、肉芽で出血したりなどもします。時々、使っているカヌレなどのデバイスがその子に合っているのか見直すことも大事ですので、主治医の先生や小児外科、耳鼻科の先生に相談してみてください。

 

 

図 気管切開カヌレの例

 

4. 気管切開の適応について

 先天代謝異常症のお子さんで気管切開が必要になるのは神経症状の強い進行性の病気が多いですが、気道や呼吸器の症状がある疾患も時に気管切開を受けることがあります。Advanced care plan(ACP)や家族会議という言葉が最近よく聞かれるようになりましたが、万が一の時にどうするのかということを時々考えておくことが大事です。それぞれの地域の特性や病院の方針もありますので、主治医の先生とも定期的に話し合っておくことをお勧めします。

 

5. 合併症など

 一番怖い合併症は気管腕頭動脈瘻からの出血です。腕頭動脈というのは右の上腕動脈と頸動脈に大動脈からつながる動脈で、気管の前を左から右へ上向きに通っています。気管と腕頭動脈が接している部分にカヌレやカフが当たることによって、壁が弱くなり、なにかのきっかけで穴が開いてそこから大出血するものです。病院内で起こしても、救命できないことが多いくらいです。このため、気管切開後は少なくとも一度はCT検査などで気管と動脈の関係を見ておく必要があります。年齢や側弯の進み具合などでも変わっていきますので、必要そうな場合には定期的にCT検査を行うこともあります。

 万が一目の前で大出血が起きた場合には、カフ付きカヌレをつけている場合にはカフをしっかり膨らませること、カフなしの子の場合でもカヌレは抜かずに気管内においておくと出血をやや抑えられることもあります。残念ながらほとんどの方は命を落としますので、予防をするしかありません。また、解剖学的に問題ないことが確認できれば不要に心配することもありません。

 次に、頻度の高いものとしては、肉芽があります。これはカヌレが気管の壁にあたることで小さな傷がつき、それをもとに肉芽ができてきます。できてしまったものはレーザーで治療したりしますが、できるだけ体に合ったカヌレを使うことが肉芽の予防さらには治療になります。耳鼻科の先生や小児外科の先生に見てもらいながらカヌレを調整することが重要です。

 

6. おわりに

 気管切開をするということを後ろ向きにとらえるご家族も多いと思いますが、呼吸ができない、苦しいというのは本人にとっては非常に苦痛です。気管切開を受けて体が楽になり、むしろ様々な活動が安心して行えるようになることもあります。気管切開だけであれば、状況によっては声も出ますし食事も可能な場合もあります。一方で根治的な治療ではなく、あくまで対症療法ですので、長期的な視点で考えたときにはまた違った見方もあると思います。気管切開や気管喉頭分離の選択や考え方、その後の管理の仕方もそれぞれの医師や病院、地域によってもさまざまなのが現状です。これから気管切開を受けるかもしれない親御さんは長期的な視点も含めてよく主治医の先生に相談しておくとよいと思います。また、すでに受けられている子の親御さんで管理に気になることがあれば、主治医や耳鼻科もしくは小児外科医に相談してみてください。

 

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JaSMIn通信特別記事No.65(濱田先生)