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JaSMIn通信特別記事No.57

2021.09.03

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変わったこと、わかったこと、そして今後のこと

 

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 酒井 規夫

 

 皆さんこんにちは。この原稿を書いている令和3年8月23日現在、新型コロナウイルスの感染者数は日々増加の一途です。昨日のデータで新規感染者数22,302人、重症者数1,891人であり、昨年からの累計感染者数は130万人を超え、亡くなった方も1万5千人を超えました。昨日の横浜市長選挙でも新型コロナの研究をされていた横浜市立大学医学部の元教授、山中氏が当選し、新型コロナの関心度は国民の中でもトップと考えられます。

 昨年の令和2年2月10日から15日にはアメリカ、フロリダで開催されていたWORLDシンポジウムというライソゾーム病を中心とした国際シンポジウムに参加して、ライソゾーム病に関するさまざまな研究、治験、特に遺伝子治療の進歩に目を見張っていました。その時には誰もマスクもしないし、中国から始まった新型コロナのニュースもどこか遠いところの話のようでした。それが帰国した次の週から様々な学会や集会が軒並み中止、延期になり、COVID-19は周りの状況を一変させてしまい、これが世界中を飲み込んで行くことになるとは、誰が想像したでしょうか。

 この文章を読まれている皆さんも、それぞれの違う立場で、COVID-19の変えた世界で生きておられると思います。最近、僕が感じていることとしてCOVID-19で変わったこと、そしてわかったこと、その中で何をしているのか、少し書かせていただこうと思います。ただ、僕自身は決して感染症の専門家でもありませんし、COVID-19の研究者でもありません。ある意味医者ではありますが素人として感じていることです。

 

コロナで変わったこと

 例えば教授室の窓から外を見ると、キャンパスの風景と遠景にはエキスポパークの大観覧車が見えます。キャンパスにはそんなに多くはないですが歩く人の姿が見えますし、エキスポパークの森の緑は美しいです。これは2年前とそう大きな違いはないようですが、注意深く観察すると、キャンパス内を歩く学生の数は少ないですし、大観覧車は回転していません。大変なことが起こっていると言っても、映画のバイオハザードのようにゾンビだけが街中を歩き回っているような風景ではありません。

 しかしながらテレビをつけたりネットニュースを見ると、毎日コロナ、コロナです。緊急事態宣言の自治体は増え続け、もっと強いロックダウンをと語る首長が映像に映し出されます。身近でも大学の学生の陽性連絡や病院職員の陽性者報告がありますので、けしてひと事ではありません。実は保健学科で感染対策委員長を務めているので、いろんな相談が持ち込まれます。

 一方で、大学人としての教育、診療、研究を考えてみると、学生に対する対面講義や実習は僕の最も意義を感じる活動なんですが、最近はオンライン中心で、学生も画面の2次元画像の中でしか会わないので、たまに廊下ですれ違っても気が付かないような希薄なつながりになっている気がします。診療については既にかかりつけの患者さんは比較的定期的に受診されますが、新規紹介患者さんは少ないように思います。また、阪大はライソゾーム病の酵素診断をかなり以前から受けているんですが、昨年からはその数は半減しています。患者会も延期やオンライン開催になり、患者さんとの距離も広がっている感じです。研究のミーティングもなるべくオンラインですることが多くて、ちょっとした間の取り方が違っていて、議論がやや低調になりがちに思います。

 あと、マスクが新しいアンダーウエアみたいな感じになっちゃいました。マスクせずに外に出ちゃうと、パンツを履かずに人前に出ている感じで、周りからも変な目で見られてしまいます。

 でも逆にいうと、今まで毎週、毎月あった出張がなくなって、オンライン開催になることによって、旅費が大幅に減りましたし、移動の時間が無くなって自分の時間が増えたように思います。これは日々のルーチン会議にも言えますし、参加するだけならミュートON、カメラOFFにすれば内職し放題です。ただ、この設定をうっかり忘れると、内緒話が筒抜けになってしまいます。

 

 

コロナでわかったこと

 そして、新型コロナでわかったこともいろいろあるのではないでしょうか?例えば、よくコロナとの引き合いに出されるインフルエンザ感染はめっきり減少し、他にも空気感染をする麻疹、水痘ですら報告は激減しています。つまり、この手洗い、うがい、マスク対策で、実に多くの感染症は予防できています。小児科では乳児のRSウイルスと突発疹の報告数はあまり変わっていませんが、これはマスクができない乳児と感染経路の違いによるものと思われます。

 そして、人類の長い歴史の中で感染症はしばしば大きな影を人間の生活に落とすことがありましたが、近年においては医療の果たす役割の中でも感染症の対策はある意味最も進んだ領域だと感じていましたが、実はそんなことはなかったということです。この新型コロナウイルスを作った人がいたかどうかは別として、バイオハザードのストーリーはあり得ると思いました。

 一方で、感染症に対する予防法として古くからあるワクチンの開発について、いくつかの国ではそれなりのスピードで成功したことは、改めて医学研究の成果と思います。日本製がもう少し早くできると良かったですが、でもきっと世に出れば優秀なワクチンとして流通する可能性を期待しています。

 

そして今後のこと

 最近本学の大学院生の講義で「果たして人類は将来滅亡するか」というテーマでディベートしたんですが、原因としては気候変動、小惑星の衝突、太陽の膨張、戦争、新興感染症、遺伝子変異などさまざまな案が出ましたが、いつかは人類は滅亡すると思っている人の方が多かったのは少し驚きでした。そして、滅亡しない意見では、大きな危機があってもきっと「いろんな意味で優秀な少数の人間」が生き残って人類は滅亡しないだろうという声が多かったことも驚きでした。

 僕自身はこの新興感染症であるCOVID-19が人間へ与えていることは新たな人類の進歩への契機となり、after coronaの中できっと今までよりも人との密接なつながりがグローバルに広がる生活が創造できることを期待しています。そして、この試練の中で重要なことは、「いろんな意味で優秀な」人間よりも、希少難病の人のように「限られた能力を持った」人間がいかに生きて行けるかということになってくると信じています。皆さんでJaSMInに登録されている患者さん、ご家族が普通に生きられる社会が残るようにひとりずつが努力していこうではありませんか。

 

 

 

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JaSMIn通信特別記事No.57(酒井先生)