ガスリー紀、タンデム紀、RUSP紀
―新生児マススクリーニングの新時代―
帝京平成大学健康医療スポーツ学部リハビリテーション学科 高柳 正樹
千葉県市原市田淵にある地層は、一番新しい地磁気逆転の記録が世界で最もよく残っているため、令和2年1月、時代を分ける境界がよくわかる地層として、世界的に認められました。このことによりいままで名前がなかった約77万4千年前から12万9千年前までの時代がラテン語で「千葉の時代」を意味する「チバニアン期」と呼ばれることになりました(写真1)。
最近埼玉で大宮、浦和などが住みたい都市として名前が出るようになり、ライバルの千葉の地盤沈下がみられている昨今、上記のチバニアン期はウレシイ話でした。
写真1 市原市教育委員会が掲示した説明看板
これをよく見て理解してから現場に行かないと、
下の方のカラブリアンの地層をみてすごいねとなど言いかねませんのでご注意を。
地質年代区分はジュラ紀、白亜紀などと「・・・紀」と称されます。マススクリーニングの歴史をこれに倣って、ガスリー紀、タンデム紀、RUSP紀などと名付けて年表を作成してみました(図1)。
図1 我が国の新生児スクリーニングの歴史
これを見るとタンデムマスによるスクリーニングが、長い苦節の時代を経てようやく日本で広く行われるようになったことが分かります。現在はRUSP紀と名付けましたが、内分泌疾患、代謝疾患に限らず実に多くの疾患が新生児マススクリーニングの候補疾患として挙げられる時代になりました。
千葉県こども病院で極めて早期に遺伝子治療を行ったSMA(spinal muscle atrophy 脊髄性筋委縮症)患者が、まったく症状の発現がなく元気に育っているのを拝見すると、SMAの新生児スクリーニングの重要性を強く感じます。
これら新しいスクリーニングが、タンデムマスを利用したスクリーニングのように、その全国展開に長い時間がかかることのないことを切に願うばかりです。
私が医学部を卒業して千葉大の小児科に入局して3年目、1977年の夏に着任したばかりの中島教授に呼ばれて、秋から始まる新生児マススクリーニングを担当するように言われました。大昔、教授の指示は命令と同じだったので、有り難くお受けいたしました。私は小さいころから好奇心が強く新しい物好きであったので、深く考えないで私のマススクリーニング物語が始まりました。
この時からすでに約45年が過ぎてしまいました。たくさんの患者さん、ご家族の方に助けられました。いろいろな先達の先生方にご迷惑をおかけいたしました。何人かの若い人たちの手助けができたとしたらうれしいかぎりです。
きっと若い人の中に新生児マススクリーニングの新しい時代を作ってRUSP紀の次の地質年代区分名を付けようとしている人もいるでしょう。
ぜひ若い人たちがそれぞれのポジションで強い力を発揮して、新しい時代が築かれていくことを期待しています。
この文章は日本マススクリーニング学会誌31(1):p71-72,2021に掲載させてもらったものの一部に加筆、校正したものです。
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