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JaSMIn通信特別記事No.4

2017.03.02

患者さんに寄り添うこと
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 成育小児科学
酒井 規夫

 

 先週金曜日はプレミアムフライデーと称して、勤務時間を短縮して且つお金を使って景気をよくしましょう、みたいなキャッチコピーに踊っているニュースが飛び交っていましたが、僕自身はずいぶん久しぶりにインフルエンザA型に罹患してしまい、飛んだプレミアムな週末でした。その時に感じたことですが、やはり元気な時には病気でしんどい人の気持ちを本当に理解することは困難で、なってみて初めてわかることが多いということを再認識しました。病気で臥せっていると、普段以上に家族の優しさが染みることもありますが、一方では本当にこのしんどさはわかってもらえんやろなあ、という気持ちと両方感じました。

 

 さて、僕自身は今まで小児科医として、先天代謝異常疾患を専門に選び、中でもライソゾーム病について診療、研究を専門に行ってきたつもりになっています。“つもり”というのはどれだけ専門的にやって来れたかについては、あまり確証がないという意味ではありますが、自分の中では一番熱心に勉強してきました。医学部を昭和62年に卒業してほぼ30年経ちますが、卒業したての頃に比べると、ライソゾーム病に関する研究、治療の進歩は“幸い”というべきかと思いますが、ずいぶん進んだものと思います。酵素補充療法、造血幹細胞移植、基質合成阻害療法、シャペロン療法、遺伝子治療、と新たな治療が目白押しで臨床治験に流れ込んできています。もちろんドラッグラグの問題、治療費高騰の問題、難病指定の問題など、もちろん様々な問題もありますが、ほとんどなすすべのなかった時代から比べると隔世の感があります。

 

 ただ、そこでもう一度患者さんとその家族の立場を考えてみた時に、これら超希少難病の方と同じ経験をすることがそもそも不可能である医療者にとって、どんどん加速する医療現場の進歩をさらに進めることを期待されている立場もあるわけですが、気をつけないと患者家族との気持ちのすれ違いを起こしやすくなっているんじゃないかと危惧するわけです。

 これは今僕が所属している大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の看護4回生の卒業研究のまとめの一節です。今年、3つの患者会に対してご協力を得て行ったアンケート調査を通して、学生が自分の言葉でまとめてくれたものです。まだ、本当の臨床現場を知らない学生さんですが、いただいたアンケート結果を丁寧に見ていくなかで、患者さんにいかに寄り添っていけるかが大切であり、患者さんも期待していることなんだとまとめてくれました。

 

 おそらく、今後ますます新規治療の波は押し寄せてきますし、それに合わせるように新生児マススクリーニングのような早期診断の流れも大きくなってくると思います。それは大きな期待でもありますが、それだけが患者さんのすべてではないこと、患者さんにもそれぞれいろんな価値観があり、幸せがあること、そんなことを忘れずに、これからも一緒に歩いて行ければと祈っています。

 

 そのために、この「先天代謝異常症患者登録制度(JaSMIn)」はコミュニケーションのツールとしてもっと有意義に使わせていただきたいと思っています。今後、保健学科の大学院生と一緒に酵素補充療法を受けている患者さんのQOL(quality of life/生活の質)尺度の開発などできればいいなと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

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JaSMIn通信特別記事No.4(酒井先生)