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JaSMIn通信特別記事No.69

2022.11.07

新生児マススクリーニングの対象疾患拡大に向けた取り組み

 

国立成育医療研究センター

研究所 マススクリーニング研究室

但馬 剛

 

1.新生児マススクリーニングの始まり

 新生児マススクリーニングが始まる契機となった「フェニルケトン尿症」は、食事中のタンパク質に含まれるアミノ酸の一種「フェニルアラニン」を分解できないことが原因で、精神発達が遅れてしまう疾患です。フェニルアラニンの摂取量を制限する食事療法で症状が改善することから、生後すぐに治療を開始すれば正常に発達することが期待されました。そのためのスクリーニング検査法(ガスリー法といいます)が米国で1961年に実用化され、以後、この方法による新生児マススクリーニングが各国へと普及していきます。我が国でも1977年から公的事業として全国で開始され、当初は6疾患=フェニルケトン尿症などアミノ酸の代謝異常症3疾患・ガラクトース血症(糖質の分解障害)・ホルモン分泌障害2疾患(先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎皮質過形成)が対象となっていました。

 

2.「タンデムマス法」の採用による対象疾患の拡大

 1990年代に入ると、極めて高感度な精密分析手法である「タンデムマス法」が新生児マススクリーニングへ応用されるようになり、我が国でも1997年から2012年まで総数195万人の新生児をスクリーニングする試験研究を経て、2013年から全国各自治体の事業として順次採用されました。タンデムマス法では、多数の物質を同時に分析することが可能で、アミノ酸・有機酸・脂肪酸と呼ばれる物質群の代謝異常症17疾患が対象となりました。ガラクトース血症・先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎皮質過形成は従来の方法で継続しており、これら20疾患が現時点での公的スクリーニング対象となっています。

 

3.新生児マススクリーニング対象疾患のさらなる拡大

 近年、検査・治療技術の急速な進歩に伴って、新生児マススクリーニングによる早期診断・治療開始が望まれる、新たな対象疾患の候補が増えています(表1)。米国・台湾など対象疾患の拡大に積極的な諸国と比較した場合、我が国の新生児マススクリーニング事業は2001年度から各自治体(都道府県+政令指定都市)が主体的に実施する形となっていて、対象拡大について速やかに方針を取り決める仕組みは用意されていません。上に挙げた新たな候補疾患については、個々の専門的研究者による小規模な試験研究が行われてきましたが、公的事業化への道筋が見えない中、自費負担による有料検査としてのスクリーニングが全国各地へ広まりつつあります。タンデムマス法の試験研究期間にもあったことですが、生まれる地域によって検査を受けられたり受けられなかったりするのが現在の実情です。

 

表1 新生児マススクリーニング新規対象候補疾患の概要

 

4.新規対象疾患の選定基準作成

 このような状況に対して、2019年度から日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発事業として、新規対象候補疾患に対する新生児マススクリーニングの実現性・有用性などに関する現状評価と、公的事業化に向けた選定基準の作成に取り組んでいます。これについては、2022年2月と3月の国会で、新規疾患の新生児マススクリーニングに関する質疑がなされた際に、厚生労働大臣の答弁で言及されました。2022年度中に最終報告することとなっており、2023年度以降、新生児マススクリーニング対象疾患の拡大について、一定の道筋が明確となり、公的事業化までの所要期間の短縮に繋がることが期待されます。

 

 

 本稿で示した知見等の一部は、日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業2019年度研究開発課題「新生児マススクリーニング対象拡充の候補疾患を学術的観点から選定・評価するためのエビデンスに関する調査研究」(課題管理番号19gk0110040h0001)および 2020〜2022年度研究開発課題「新生児マススクリーニング対象拡充のための疾患選定基準の確立」(課題管理番号20gk0110050h0001)にて得られたものです。

 

全文PDFは以下よりダウンロードできます。

JaSMIn通信特別記事No.69 (但馬先生)