尿素サイクル異常症、リジン尿性蛋白不耐症のシトルリン治療
熊本大学大学院 生命科学研究部 小児科学分野
中村 公俊
1.はじめに
尿素サイクルとは、体内で生成されるアンモニアを、主に肝臓で解毒して尿素を生成する経路をいいます(図1)。その経路で働いている酵素の異常によって尿素サイクル異常症がおこります。その中でも、OTC(オルニチントランスカルバミラーゼ)欠損症やCPS(カルバミルリン酸合成酵素)I欠損症は、新生児期に発症する新生児型から小児期、成人期に発症する遅発型まで、さまざまな時期に血中アンモニアが上昇し意識障害などの重い神経症状を起こします。また、リジン尿性蛋白不耐症は、二塩基性アミノ酸の輸送蛋白の一つであるy+LAT?1(y+L amino acid transporter-1)の欠損によって、二塩基性アミノ酸であるリジン、アルギニン、オルニチンの小腸からの吸収が低下し、尿中にはこれらのアミノ酸が多く排泄されてしまうために、体内では欠乏を生じます。そのため、タンパク質の合成障害や、体重増加不良、高アンモニア血症などをおこします。これらに対する治療法のひとつとして、シトルリンというアミノ酸が使われています。しかし、シトルリンはこれまで治療薬として承認されておらず、試薬やサプリメントとしてとして販売されているものが用いられてきました。
図1 尿素サイクル
(新生児マススクリーニング対象疾患等 診療ガイドライン2015 診断と治療社 41ページより引用)
2.シトルリンによる治療
OTC欠損症やCPSI欠損症では、尿素サイクルの中でオルニチンとカルバミルリン酸からシトルリンが合成される過程が障害されているため、血中のシトルリンが低下しています。内服治療としてシトルリンを補充すると、尿素サイクルの中でシトルリンとアスパラギン酸からアルギニノコハク酸を合成する反応が進み、尿素が生成され、過剰な窒素(ちっそ)の一部を尿素として体外に排泄することができるようになります。この治療によってアンモニアを下げる効果があるため、OTC欠損症やCPSI欠損症ではシトルリンが治療に用いられています。リジン尿性蛋白不耐症では、シトルリンは中性アミノ酸として吸収することができて、体内でアルギニンやオルニチンに変換されます。アルギニンよりもシトルリンを内服したほうが吸収がよいため治療が容易です。シトルリンを投与することにより、高アンモニア血症も改善します。
これらの治療の用いられるシトルリンは、前述のように試薬やサプリメントが用いられてきました。しかし、高価で品質が不確実であるなど、治療に用いるには多くの課題がありました。日本先天代謝異常学会では、2008年から薬事委員会の活動として、協和発酵バイオ株式会社の協力により、これらの疾患に限って安価に提供されたシトルリンを無償で配布してきました。この供給体制は研究費を使って購入したシトルリンを、主治医宛に送付する、という仕組みにより維持されてきました。しかし、無償で提供する体制を長期にわたって続けることは困難です。今後の安定した供給体制を継続するために、日本先天代謝異常学会薬事委員会で検討し、理事会での承認を得て、有償で供給する体制に移行することが決定しました。
3.シトルリン無償配布の終了と有償化について
これまでおこなってきたシトルリンの無償配布は2017年6月30日までで終了し、7月1日以降に薬事委員会の担当事務局に申し込まれた分から、有償での供給をおこなっています。申込みと供給の手順は以下のとおりです。主治医の先生からの申込みのみを受け付けています。
①シトルリン送付をご希望の旨を供給担当事務局までメールにてお知らせください。
同時に患者様に代金の振込についてお伝えください。
②患者様からシトルリン代金(7,000円)をお振込みいただきます。
*かならず患者様のお名前でお振込みください。
③入金確認後、事務局から主治医の先生宛にシトルリン500gを発送いたします。
④主治医の先生から患者様に処方してください。
2017年7月以降にこの供給体制へと移行した後で、2か月間に30件ほどの依頼をいただき、振込みを確認後にシトルリンを発送しています。これまでに特に問題は起きていませんが、主治医の先生との連携を密に取り、行き違いがないように努めたいと思います。また、入金を確認後にシトルリンを主治医の先生宛にお送りしていますが、初発症例の急性期など、緊急時はこの限りではありませんので、遠慮なくご相談ください。
連絡先 日本先天代謝異常学会 薬事委員会 シトルリン供給事務局
(熊本大学大学院小児科学分野内)
e-mail: pediat@kumamoto-u.ac.jp
参考文献
1)Kido J, Nakamura K, Mitsubuchi H, Ohura T, Takayanagi M, Matsuo M, Yoshino M, Shigematsu Y, Yorifuji T, Kasahara M, Horikawa R, Endo F. Long-term outcome and intervention of urea cycle disorders in Japan. J Inherit Metab Dis. 35, 777-785 (2012)
2)Nakamura K, Kido J, Mitsubuchi H, Endo F Diagnosis and treatment of urea cycle disorders in Japan. Pediatr Int. 56, 506-509 (2014)
3)Noguchi A, Nakamura K, Murayama K, Yamamoto S, Komatsu H, Kizu R, Takayanagi M, Okuyama T, Endo F, Takasago Y, Shoji Y, Takahashi T Clinical and genetic features of lysinuric protein intolerance in Japan. Pediatrics International 58:979-983 (2016)
4)Tanaka K, Nakamura K, Matsumoto S, Kido J, Mitsubuchi H, Ohura T, Endo F Citrulline administration for urea cycle disorders in Japan. Pediatrics International 59, 422-426 (2017)
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