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JaSMIn通信特別記事No.47

2020.11.06

ガラクトース血症

 

藤田医科大学医学部小児科 伊藤 哲哉

 

 ガラクトース血症は、新生児マススクリーニングの開始当初から対象疾患となっている糖の代謝異常症です。本日はガラクトース血症についての概略を述べさせていただきます。

 

1.ガラクトースとは

 糖には様々な種類があり、構造の基本単位となる単糖類と、これが結合してできる二糖類、多糖類などに分類されます(図1)。ガラクトースは糖の基本単位となる単糖類の一種で、その他の単糖類としては、グルコース=ブドウ糖、フルクトース=果糖などがあります。どの単糖がどのように結合するかによって糖の種類が決まり、砂糖(ショ糖)はグルコースとフルクトースが結合した二糖類、でんぷん、グリコーゲンはともにグルコースが多数結合した多糖類ですが、結合の仕方により異なる構造になっています。

 乳糖は、グルコースとガラクトースが結合した二糖類で、母乳や牛乳など哺乳類の乳汁に含まれる糖の主成分です。母乳では100g中6.4g、普通の濃度で作った粉ミルクでは100ml中約7gの乳糖が含まれており、母乳やミルクしか飲めない赤ちゃんでは全体の約50%のカロリーを乳糖から摂取していることになります。摂取された乳糖は小腸でガラクトースとグルコースに分解され、肝臓に運ばれて主にエネルギーへと代謝されます。

 

図1 糖の種類

 

2.ガラクトース血症とは

 肝臓に到達したガラクトースは肝臓にあるいくつかの酵素の働きで、まずガラクトース-1-リン酸という物質に変換され、次にガラクトース-1-リン酸とUDPグルコースという物質が反応してグルコース-1-リン酸とUDPガラクトースが産生されます(図2)。これらの反応に関与する酵素の働きが先天的に障害されていると血液中のガラクトース、ガラクトース-1-リン酸が上昇してしまいます。ガラクトース-1-リン酸は高値になると肝障害をきたす有害な物質ですし、ガラクトースが高値となると、これがガラクチトールという物質になって水晶体混濁をきたすため白内障を生じるなど様々な障害が発生する恐れがあります。このような、ガラクトースの代謝酵素の異常によって生じる病気をガラクトース血症と呼んでいます。

 

図2 ガラクトースの代謝

 

3.ガラクトース血症1

 ガラクトース-1-リン酸とUDPグルコースから、糖の部分を入れ替えてグルコース-1-リン酸とUDPガラクトースにする酵素が障害されることで生じる病気です。ガラクトース-1-リン酸が分解されず異常高値となり、前述した通りこれが肝障害など重篤な症状をきたすため、放置されれば死に至るような重症の疾患です。発生頻度は約90万人に1人と非常に稀な疾患ですが、早期に診断し母乳、人工乳の摂取を中止し、乳糖除去乳や大豆乳に切り替える治療、すなわち乳糖制限を開始すれば症状の発生を抑えることができます。このため、我が国では新生児マススクリーニングが開始された当初からの対象疾患となっています。乳糖制限は生涯必要で、乳児期以降も乳製品の摂取を制限する必要があり、長期合併症として神経症状の発現、精神発達遅滞や女児での性腺機能障害などが知られているため継続した専門施設でのフォローアップが必要です。

 

4.ガラクトース血症2

 ガラクトースをガラクトース-1-リン酸へ変換する酵素の障害により発生する疾患です。発生頻度は約100万人に1人とこれも非常に稀な疾患です。ガラクトース-1-リン酸が産生されないため肝障害などの重篤な症状はきたしませんが、ガラクトースの異常高値が持続すれば前述したように水晶体混濁をきたしてしまいます。このため治療は1型に準じた乳糖制限食が必要となります。1型と同様に新生児マススクリーニングで発見されますが、水晶体混濁以外の症状はきたさないため1型のように重症化することはありません。

 

5.ガラクトース血症3

 代謝経路で産生したUDPガラクトースをUDPグルコースに変換する酵素が障害されるために生じる病気です。発生頻度はガラクトース血症の中で最も多く、7~16万人に1人とされています。UDPグルコースは上記の1型で障害される反応部位で必要な物質であるため、肝臓を含む全身でこのUDPグルコースへの変換反応が滞ると1型と同様、重度の肝障害などをきたしますが、このような症例は極めてまれで日本人では報告されていません。通常は末梢型という、酵素の障害が赤血球や白血球に限られるタイプであり、これは特に症状を示すことはなく治療も必要ありません。新生児マススクリーニングで発見され、ガラクトース-1-リン酸の値がかなり高ければ乳糖制限を行う場合もありますが、通常は無治療で正常化していきます。

 

6.ガラクトース血症4型 日本から報告された新しいガラクトース血症

 ガラクトース血症は新生児マススクリーニングの対象疾患になっていることから、生後5日目頃に生まれた赤ちゃん全員が検査を受けており、ガラクトース、ガラクトース-1-リン酸が高い赤ちゃんは、その原因を調べるために専門病院にかかっていただいています。ここで上記のガラクトース血症や、その他のガラクトースが高くなってしまう病気も含め検査を行います。この検査によっても1型~3型と診断されず、原因がよくわからない例が知られておりました。東北大学小児科、和田先生のグループはこのような症例に詳細な検討を加えて、ガラクトース代謝経路酵素の欠損症を新たに発見し2018年に英文専門誌に報告しました。この酵素は、腸から吸収されたガラクトースが2型の酵素でガラクトース-1-リン酸に変換される前の段階にあるもので、ガラクトース自体の形を変えて2型酵素の反応に適した形にするもので、これまではこの酵素の異常は病気として確認されていませんでした。検査異常値としては2型によく似ており判定が難しかったのですが、故深尾敏幸先生が研究代表者を務められていた研究班も協力して症例が集められ、遺伝子検査や酵素活性測定を詳細に行うことで新規疾患と認められ、ガラクトース血症4型として世界的に認知されました。今後は診断や治療法に関してさらに詳しく検討し、先天代謝異常症専門医が協力してこの病気に関する新しい知見を世界に発信されることを期待します。

 

7.その他のガラクトース高値をきたす疾患

 ガラクトース代謝の酵素異常のほかにも血液中のガラクトースが高値となってしまう病気がいくつか知られています。新生児マススクリーニングでガラクトース、ガラクトース-1-リン酸高値を指摘された場合、実際は上記のガラクトース血症よりもその他の疾患でガラクトースなどが上昇していることのほうが多くなっています。

 この中で頻度が最も高いものは門脈-体循環シャントと呼ばれる状態です。門脈は腸管からの血液を集めて肝臓に送り込む血管で、腸管で吸収されたガラクトースも門脈を通って肝臓に運ばれます。門脈の血流がすべて肝臓に流れ、肝臓を通ってから下大静脈→心臓へと流れる体循環に入るのが通常の血液の流れ方ですが、門脈の血流が何らかの理由で直接体循環に入ってしまうことを門脈-体循環シャント(短絡)といいます。赤ちゃんが子宮内で胎盤からの血流で栄養をもらっているときは、門脈から直接下大静脈につながる静脈管という血管があり生理的に門脈-体循環シャントの状態になっていますが、出生後この静脈管が閉じて通常の血流状態になります。しかし、静脈管の閉じるのが遅かったり、閉じない状態が続いてしまうと門脈-体循環シャントの状態になってしまいます。これ以外にも、生まれつきの血管走行異常や肝内血管腫(血管が集まってできた腫瘍)によっても門脈-体循環シャントが生じます。このような状態では、肝臓で代謝されるはずのガラクトースなどの物質がそのまま体循環に入って全身に回ってしまうため血中ガラクトースが高値となってしまいます。ガラクトースだけでなく、腸内で発生したアンモニアや有機酸などの有害物質も肝臓で分解されることなく体中を循環してしまうため、長期に続く場合は手術などが必要になる場合もあります。

 その他にも、先天性胆道閉鎖症、シトリン欠損症などの胆汁うっ滞を示す疾患でもガラクトース高値を示すことがあります。

 

8.まとめ

 新生児マススクリーニングでガラクトース高値が指摘された場合は、ガラクトース血症の鑑別や他の疾患の有無を確認する必要があり、また状況によっては、非常に稀なものの直ちに乳糖除去を行わねばならないこともあります。ガラクトース血症は急激に症状が悪化するようなことはありませんが、乳糖除去食を継続的に行うなどの慢性期管理が重要です。また長期合併症の管理も必要となります。いずれも的確な判断が求められますので、専門医の指示に従って日常生活を送るよう心掛けてください。

 

 

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JaSMIn通信特別記事No.47(伊藤哲哉先生)