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JaSMIn通信特別記事No.9

作成日:2017.08.01

先天代謝異常症の遺伝子治療

東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 遺伝子治療研究部・小児科
大橋 十也

 

最近、遺伝子治療が究極の遺伝病の治療法として注目を浴びています。ただ、今行われている遺伝子治療は全身の細胞の遺伝子を直したりするものではありません。では、遺伝子治療のメリットはなんでしょうか?やはり、一度治療するとかなり長い時間治療効果が期待できることや、脳など通常の薬では治りにくい臓器を直せる可能性があります。
以下に遺伝子治療の現在の状況についてお話します。

 

1.遺伝子治療ってなんですか?

遺伝子治療は、狭義では遺伝子を細胞に導入して病気を治療するものです。先天代謝異常症は酵素などを作る基になっている遺伝子に異常があって発症するのですから、正常な遺伝子を細胞に導入し治療しようというものです。

 

2.遺伝子を細胞に導入するにはどんな方法がありますか?

遺伝子は注射したりして体に投与しても細胞は膜に囲まれているので細胞の中には入って行きません。これでは病気は治りません。遺伝子は細胞の中の核というところに存在して初めて治療効果を発揮します。よって体の外から投与した遺伝子は細胞内に入り、核までに行かなければなりません。現在、最も多く用いられる方法はウイルスを用いる方法です。

ウイルスは自分の力だけでは子孫を残せず、細胞に感染して、細胞の力を利用して自分の遺伝子(子孫)を残します。このために、ウイルスは自分の遺伝子を感染した細胞の核に入れる力を持っています。よって治療用の遺伝子をウイルスの遺伝子に組み込んでおけば、その遺伝子は細胞の核に行くことが出来ます。もちろん、遺伝子治療に使うウイルスは、病原性を持たないように、工夫してあります。

 

3.どんなウィルスが遺伝子治療に使われますか?

先天性代謝異常症の場合は、アデノ随伴ウイルスとレンチウイルスです。アデノ随伴ウイルスはAAVなどと略され、ヒトへの病原性は今のところ知られていませんが、非常に効率よくヒトの細胞に感染します。レンチウイルスはAIDSの原因ウイルスです。もちろんAIDSが発症しないように、ウイルスの遺伝子を改変してあります。ウイルスの中には正常の酵素の遺伝子が入っています。

 

4.遺伝子治療の方法にはどんなものがありますか?

大きく分けて2種類あります。ひとつにはインビボ(In Vivo)法と言って酵素の遺伝子を搭載したウイルスを筋肉や静脈内に注射したり、脳の一部に打ったりします。もう一方はエクスビボ(Ex Vivo)法と言って一度、細胞を採取して、それに遺伝子を導入して、体に返します。この場合の多くは骨髄の細胞です。つまり造血幹細胞移植に似ています。どちらの方法をとるかは疾患や治療しようとする臓器によって決められます。

 

5.現在どんな疾患に遺伝子治療が行われていますか?

現在、承認されている遺伝子治療は、全世界で7つあります。そのうち、欧米で承認されているものが3つで、それぞれ癌、免疫不全症、そして先天代謝異常症を対象としたものです。先天代謝異常症は、リポ蛋白リパーゼ欠損症という病気で、高脂血症、重症の膵炎などを起こす疾患です。ただ、承認はされましたが、まだ販売はされていません。残念ながら、日本で承認された遺伝子治療薬はまだありません。日本で健康保険により遺伝子治療を受けることはできません。

 

6.今後どのような先天代謝異常症に遺伝子治療が行われる予定ですか?

現在、治験を行っていて効果が期待されている先天代謝異常症には、異染性脳白質変性症、副腎白質ジストロフィー、ムコ多糖症があります。治験とは、健康保険を用いて治療できるように患者さんにご協力を頂き新しい薬の効き目や安全性を確かめる、ある種の研究です。まだ治験ではないですが、AADC(芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素)欠損症でも臨床研究をして良い結果が出ています。臨床研究は治験とちがい健康保険で治療可能になることを目指していない研究です。いずれにせよ、遺伝子治療を先天代謝異常の患者さんに広くお届けできるのはもう数年かかりそうです。

 

7.なんで遺伝子治療がどんどん広がらないのですか?

これはお金の問題が大きいです。遺伝子治療が薬として国に認められるためには治験を行わなければならず、膨大な時間と労力そしてお金がかかります。これにはやはり、製薬会社の参入が必要です。しかし、製薬会社は採算を考えますので、患者さんの少ない先天代謝異常には二の足を踏み、そう簡単には行きません。

 

8.先天代謝異常症の患者さんが遺伝子治療を受けようと思ったらどうしたら良いでしょうか?

日本では、現在先天代謝異常症で治験が行われていないので、大半の患者さんは海外に行き治験に参加しないと遺伝子治療を受けるのは難しいですが、AADC欠損症だけは日本で臨床研究(治験の前の段階)として受けることが可能かもしれません。

 

9.遺伝子治療を受けるとすべての症状が改善するのでしょうか?

たとえ、ウイルスの力をかり、細胞に酵素遺伝子を入れる事が出来るとしても、今の技術では体の全ての細胞に遺伝子を入れることは出来ません。ですので、全身の全ての細胞が良くなるわけではありあせん。遺伝子が入った細胞に起因する症状は改善されますが、それ以外は改善されません。例えば、脳に遺伝子を入れた場合、脳に関する症状の改善は期待されますが(これも脳の全ての細胞に入れるのは出来ませんが)脳以外の症状は治りません。

 

10.遺伝子治療を受ければ、もう子供には遺伝しないのでしょうか?

前の質問にも関連しますが、現在の遺伝子治療では卵子、精子などの生殖細胞には遺伝子は入りません、とういうより入れるのは禁止されています。これは、遺伝子治療の影響が次世代にどんな影響を及ぼすかまだわからないからです。よって遺伝性疾患の場合は、遺伝子治療を受けても、病気の原因となった異常のある遺伝子は次世代に遺伝します。また、治験に参加された場合は、避妊を要求されることがあります。

 

11.遺伝子治療に危険性はありますか?

遺伝子治療の危険性は白血病です。現在の技術では、細胞の遺伝子に正常遺伝子を入れる
こと自体は可能ですが、入れる遺伝子の場所までコントロールすることは困難です。細胞の中には、DNAの非常に長い鎖のなかに、様々な遺伝子があります。もし、外から入れた遺伝子が、発癌に関係する遺伝子の近くに入ったりすると、発癌に関係する遺伝子が活性化されて、癌を発症することがあります。ただ、これはレトロウイルスを使うと起きたことはありますが、最近使っているレンチウイルスでは起きたことはありません。

 

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JaSMIn通信特別記事No.9(大橋先生)