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新型コロナウイルス感染拡大下における先天代謝異常症の診療~日本先天代謝異常学会からのメッセージ~

2020.06.11

以下の記事は、新型コロナウイルス感染症と先天代謝異常症に関する情報について日本先天代謝異常学会が発表した公式見解です。

日本先天代謝異常学会HPの当該記事は、こちらのURLよりご覧ください。

http://jsimd.net/message_covid19.html

 

新型コロナウイルス感染拡大下における先天代謝異常症の診療

~日本先天代謝異常学会からのメッセージ~

 

2020年5月26日
日本先天代謝異常学会

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大(パンデミック)が大きな社会問題になっております。基礎疾患として先天代謝異常症を持つ患者さんやそのご家族は、大変ご心配のことでしょう。日本先天代謝異常学会では、先天代謝異常症を持つ患者さんやそのご家族の皆さまにこの新しい感染症が蔓延する中でどのような対応をすべきかについて以下の提言をまとめました。原案の作成を国立成育医療研究センター総合診療部の窪田満先生(日本先天代謝異常学会理事)にお願いし、理事・評議員の意見を加えて完成させました。以下のメッセージを日々の生活や診療にお役立ていただければ幸いです。
 なお、酵素補充療法で定期的に頻回に病院を受診しているライソゾーム病の患者さんとそのご家族を対象とした提言を、難治性疾患政策研究事業ライソゾーム病・ペルオキシソーム病研究班(研究代表者:奥山虎之)でまとめました(https://www.jasmin-mcbank.com/article/3731/)。当該疾患の患者さまにはこちらもご参照いただければ幸いです。
 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言は昨日解除されましたが、これで全く安心というわけではありません。治療薬やワクチンが利用できるようになるまで、この感染症との闘いは続きます。新型コロナウイルス感染症は重篤な疾患です。しかし、この感染症を過度に心配することにより、基礎疾患の治療が不十分になることは極力避けなければなりません。

 

新型コロナウイルス感染と先天代謝異常症

日本先天代謝異常学会の見解

 

 新型コロナウイルス・パンデミックに際しまして、基礎疾患として先天代謝異常症を持つお子さまの御家族は、大変心配の事とお察しもうしあげます。新しい感染症のため、情報が少なかったのですが、少しずつ情報が出てきましたので、解説いたします。
 メッセージとしては以下の二つです。

● 患児の隔離よりも保護者の感染防止策が重要です

● 医療的ケア児や移植後の患者さんは体調悪化の際、必要な受診を控えないようにしましょう

 

1. 小児の患者は非常に少なく、重症化しない

 小児の新型コロナウイルス感染症は、成人に比較して、患者数が少なく、無症状あるいは軽症例が多く、死亡率が低いことは、中国を含む諸外国から報告されています1)。また、そのほとんどが家庭内での感染です。国内においても、5月7日時点での陽性患者数15,382人中、20歳未満は609人(10歳未満253人)で、全体の4%に過ぎません(厚労省発表)。600人というと多く感じるかもしれませんが、全体と比較したときの割合の小ささが重要です。また、厚労省の発表では20歳未満の死亡者はゼロです。
 小児に少ない理由としては、小児はよく風邪をひき、その風邪のウイルスの一つがコロナウイルスなので、交差抗原性によって新型コロナウイルスの抗体を保有しているとか、BCGが新型コロナウイルスに対して有効に働いているとか、新型コロナウイルスのレセプターであるACE2の唾液等からの分泌が多く、そこでブロックされているとか、様々な仮説が出ていますが、確実なものはありません。現在、世界規模での研究が進行しています。
 なお、家族等との濃厚接触の場合の感染リスクとしては、全体で8.0%のところで10歳未満の小児で7.4%ですので、少なくとも家族内感染に関しては、小児が感染しにくいということはありません2)。保護者の感染防止策が非常に重要であることがわかると思います。
 これから学校や保育園が再開された場合にどうなるかは不安だと思いますが、日本においては、学校や保育園でのクラスター事例は、今までの報告では稀です。インフルエンザと異なり、学校や保育現場でクラスターを生じて感染が広がる可能性は、少なくとも現時点では高くはないと考えられ,家庭内での濃厚接触の予防の方が重要と考えられます。

 

2. 数少ない重症例の検討

 小児の重症例は少ないのですが、2歳未満の小児には注意が必要といわれています。最近、重症例の検討が北米で行われました3)。北米の46のPICUに入院した48人の小児患者に関する検討です。年齢の中央値(範囲)は13歳(4.2〜16.6)です。そのうち40人の患者(83%)に、重要な基礎疾患がありました。19人(40%)が、日本で言う「医療的ケア児(気管切開を含む、長期的な医療管理を要する児)」でした。他に、免疫不全(悪性疾患の化学療法中を含む)が11人(23%)、肥満が7人(15%)と上位を占めましたが、他の疾患にめだつものはありませんでした。先天代謝異常症に関する記載はありませんでした。
 PICU管理となった児ですので、当然重症児が多いのですが、PICU入院患者のうち18人(38%)が人工呼吸を必要とし、1人の患者(2%)にはECMOが必要でした。ただ、この観察期間の中で2人の患者(4%)しか死亡しておらず、北米におけるICU入院後の成人の死亡率(人工呼吸器を使用した患者のうち、18~65歳の患者の死亡率は76.4%で、65歳以上の死亡率は97.2%)とは比較にならない少なさです。
 以上は非常に成人の重症者数が多い北米での話であり、そのまま日本に当てはめることはできません。しかし、医療的ケア児や移植医療を受けられて免疫抑制薬を内服中の児は、重症化に十分に気を付ける必要があります。先天代謝異常症そのものがリスク因子にはなっていませんが、先天代謝異常症の小児には医療的ケア児や移植後の患者さんも多いと思います。「原因不明の発熱が続く、呼吸が苦しい、栄養の摂取ができない、ぐったりしている」などの症状が見られたときは、新型コロナウイルス感染症以外にも様々な病気が考えられますので、速やかにかかりつけの医療機関を受診してください。必要な受診を控えることのないようにお願いします。全国の先天代謝異常症専門医は優しい先生ばかりですので、悩みごとや疑問があったら、是非主治医に相談して下さい。ただし、新型コロナウイルスの濃厚接触者や健康観察対象者である場合は、まず地域の帰国者・接触者電話相談センターにご相談ください。

 

【文献】
1) Zimmermann P, Curtis N.: Coronavirus Infections in Children Including COVID-19: An Overview of the Epidemiology, Clinical Features, Diagnosis, Treatment and Prevention Options in Children. Pediatr Infect Dis J. 2020 May;39(5):355-368.

2) Bi Q, Wu Y, Mei S, et al.: Epidemiology and transmission of COVID-19 in 391 cases and 1286 of their close contacts in Shenzhen, China: a retrospective cohort study. Lancet Infect Dis. 2020.

3) Shekerdemian LS, Mahmood NR, Wolfe KK, et al: Characteristics and Outcomes of Children With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Infection Admitted to US and Canadian Pediatric Intensive Care Units. JAMA Pediatr. Published online May 11, 2020.