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新型コロナウイルス感染と先天代謝異常症

2020.05.21

以下の記事は、新型コロナウイルス感染と先天代謝異常症に関する最新情報について窪田満先生(国立成育医療研究センター総合診療部)の個人的な見解をいただいたものであります。日本先天代謝異常学会においても本件に関する公式見解を近日中に発表する予定であり、情報を入手次第改めてご案内させていただきます。

 

新型コロナウイルス感染と先天代謝異常症

 

国立成育医療研究センター総合診療部 窪田 満

 

 新型コロナウイルス・パンデミックがようやく収束しつつあるところですが、持病として先天代謝異常症を持つお子さまの御家族は、大変心配だったことと思います。新しい感染症のため、情報が少なかったのですが、少しずつ情報が出てきましたので、解説いたします。

 メッセージとしては以下の二つです。

患児の隔離よりも保護者の感染防止策が重要です

医療的ケア児は体調悪化の際、必要な受診を控えないようにしましょう

 

1.小児の患者は非常に少なく、重症化しない

 小児の新型コロナウイルス感染症は、成人に比較して、患者数が少なく、無症状あるいは軽症例が多く、死亡率が低いことは、中国を含む諸外国から報告されています1)。また、そのほとんどが家庭内での感染です。国内においても、5月7日時点での陽性患者数15,382人中、20歳未満は609人(10歳未満253人)で、全体の4%に過ぎません(厚労省発表)。600人というと多く感じるかもしれませんが、全体と比較したときの割合の小ささが重要です。また、厚労省の発表では20歳未満の死亡者はゼロです。

 小児に少ない理由としては、小児はよく風邪をひき、その風邪のウイルスの一つがコロナウイルスなので、交差抗原性によって新型コロナウイルスの抗体を保有しているとか、BCG(結核予防ワクチン)が新型コロナウイルスに対して有効に働いているとか、新型コロナウイルスのレセプターであるACE2(アンギオテンシンインベルターゼ2)の唾液等からの分泌が多く、そこでブロックされているとか、様々な仮説が出ていますが、確実なものはありません。現在、世界規模での研究が進行しています。

 なお、家族等との濃厚接触の場合の感染リスクとしては、全体で8.0%のところで10歳未満の小児で7.4%ですので、少なくとも家族内感染に関しては、小児が感染しにくいということはありません2)。保護者の感染防止策が非常に重要であることがわかると思います。

 これから学校や保育園が再開された場合にどうなるかは不安だと思いますが、日本においては、学校や保育園でのクラスター事例は稀です。インフルエンザと異なり、学校や保育現場でクラスターを生じて感染が広がる可能性は、現時点では低いと考えられます。

 

 

2.数少ない重症例の検討

 小児の重症例は少ないのですが、2歳未満の小児には注意が必要といわれています。最近、重症例の検討が北米で行われました3)。北米の46のPICU(小児集中治療室)に入院した48人の小児患者に関する検討です。年齢の中央値(範囲)は13歳(4.2〜16.6)です。そのうち40人の患者(83%)に、重要な基礎疾患がありました。19人(40%)が、日本で言う「医療的ケア児(気管切開を含む、長期的な医療管理を要する児)」でした。他に、免疫不全(悪性疾患の化学療法中を含む)が11人(23%)、肥満が7人(15%)と上位を占めましたが、他の疾患にめだつものはありませんでした。先天代謝異常症に関する記載はありませんでした。

 PICU管理となった児ですので、当然重症児が多いのですが、PICU入院患者のうち18人(38%)が人工呼吸を必要とし、1人の患者(2%)にはECMO(体外式膜型人工肺)が必要でした。ただ、この観察期間の中で2人の患者(4%)しか死亡しておらず、北米におけるICU(集中治療室)入院後の成人の死亡率(人工呼吸器を使用した患者のうち、18~65歳の患者の死亡率は76.4%で、65歳以上の死亡率は97.2%)とは比較にならない少なさです。

 以上は非常に成人の重症者数が多い北米での話であり、そのまま日本に当てはめることはできません。しかし、医療的ケア児は重症化に十分に気を付ける必要があります。先天代謝異常症そのものがリスク因子にはなっていませんが、先天代謝異常症の小児には医療的ケア児も多いと思います。医療的ケア児に、「原因不明の発熱が続く、呼吸が苦しい、栄養の摂取ができない、ぐったりしている」などの症状が見られたときは、新型コロナウイルス感染症以外にも様々な病気が考えられますので、速やかに医療機関を受診してください。必要な受診を控えることのないようにお願いします。ただし、医療的ケア児であっても、新型コロナウイルスの濃厚接触者や健康観察対象者である場合は、まず地域の帰国者・接触者相談センターにご相談ください。

 

文献

1) Zimmermann P, Curtis N.: Coronavirus Infections in Children Including COVID-19: An Overview of the Epidemiology, Clinical Features, Diagnosis, Treatment and Prevention Options in Children. Pediatr Infect Dis J. 2020 May;39(5):355-368.

2) Bi Q, Wu Y, Mei S, et al.: Epidemiology and transmission of COVID-19 in 391 cases and 1286 of their close contacts in Shenzhen, China: a retrospective cohort study. Lancet Infect Dis. 2020.

3) Shekerdemian LS, Mahmood NR, Wolfe KK, et al: Characteristics and Outcomes of Children With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Infection Admitted to US and Canadian Pediatric Intensive Care Units. JAMA Pediatr. Published online May 11, 2020.

 

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新型コロナウイルス感染と先天代謝異常症