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JaSMIn通信特別記事No.29

2019.04.10

CPT2(カルニチンパルミトイル転換酵素2)欠損症

 

帝京平成大学健康医療スポーツ学部

高柳 正樹

 

病気の成り立ち

 脂肪は人がエネルギーを作り出す材料として非常に重要な物質です。たとえば、北海道で行方不明になった7歳の子どもが7日間以上水だけ飲んでいたにもかかわらず、無事生還した事件がありましたよね。これも体内に蓄積していた脂肪が燃えてエネルギーを作り続けたことができたので、とても元気だったわけです。この脂肪を燃やしてエネルギーを作る仕組みは複雑ですが、ミトコンドリアという細胞の発電所で行われています。体の脂肪細胞に蓄えられていた脂肪は脂肪酸になって、体のいろいろなところの細胞に届けられ細胞の中に入ります。細胞の中に入った脂肪酸は、そのあとカルニチンというビタミンのようなものを利用した仕組み(カルニチンサイクル)で、ミトコンドリアに取り込まれます。
 この仕組みを構成している部品の一つがCPT2(カルニチンパルミトイル転換酵素2/Carnitine palmitoyltransferase2)という酵素です。この部品は遺伝子に書かれている設計図に従って作り出されています。もし、この設計図にミスプリントがあって正常な部品ができないとなると、脂肪酸がミトコンドリアに取り込まれなくなります。こうなるとエネルギー産生の原料となる脂肪酸がないので、自動車がガス欠でエンストするのと同じで、エネルギー不足で人の体のあらゆるところの動きがうまく行かなくなります(図1)。

図1 脂肪酸のミトコンドリアへの輸送

 

臨床症状

 具体的な症状としては、重い場合は、新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症や高アンモニア血症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来すことがあります。軽い場合は、筋力低下や筋痛といった筋症状が見られます(表1)。
 長期管理例において一番重要な合併症は心筋症です。これを防止するために奇数鎖の脂肪酸の投与が試みられています。妊娠時の急激なエネルギー必要性の増大や出産時のストレスやカロリー摂取不足による、急性発作の出現を防止することはとても重要です。

 

表1.ミトコンドリア脂肪酸代謝異常症の主な臨床症状・所見

 

治療

 飢餓に伴う低血糖の防止と運動負荷による筋障害進行の防止が治療の原則です。低血糖の防止は、頻回哺乳、MCT(中鎖トリグリセリド)の使用、飢餓時のブドウ糖を含む補液、脂質摂取制限などにより行います。筋症状については、MCTの使用、脂質摂取制限、運動制限などで対応します。これらの早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来るとされています。
 薬物療法としてのカルニチン投与は多くの議論がなされています。少なくとも血中フリーカルニチン値を高値にすることは避けなければならないです。血中フリーカルニチン値を10~20μmol/l程度にすることが現在の日本の治療方針と私は考えます。Roeらの報告によると、奇数鎖の脂肪製剤であるトリヘプタノイン(triheptanoin)とカルニチンとの併用療法で良好な治療成績を上げています。
 普段しっかり病気のコントロールができていても不意に風邪や下痢になったり、怪我をしてしまい体の状態が悪い時(シックデイ、SICK DAY)は、体がたくさんのエネルギーを必要とすることが予想されます。特に、飢餓時間の目安を超えて経口摂取が出来ない時は、医療機関をすみやかに受診し、検査を行うと同時にグルコースを含む輸液を十分に行うことが重要です。このような場合は、家族に対しても、速やかに医療機関へ受診する必要があると、繰り返し伝えることが重要です。

 

CPT2欠損症と突然死

 私が医学中央雑誌の検索システムを利用した検索結果や学会報告などから、CPT2欠損症による突然死症例を収集したところ、合計16例の突然死症例が収集されました。山本らのSIDS(乳幼児突然死症候群)の法医解剖例による研究では、SIDSの4%にCPT2欠損症の遺伝子変異が見出されています。多くの突然死症例が正しく診断されていないことから、多くのCPT2欠損症による突然死は見逃されていることと考えられました。このことで2018年の4月より新生児拡大マススクリーニング(タンデムマス)の検査項目にCPT2欠損症が追加されることになりました。

 

今後の課題

 CPT2欠損症は、診断がついていれば適切な治療や食事、運動などの日常生活の注意により、死亡したり大きな障害をもたらすことのない病気と考えられます。昨年から新生児マススクリーニングの対象疾患になったことから、新生児スクリーニングで発見された患者や家族が安心して生活し元気に大きくなるには、どのような仕組みが必要なのかを十分に検討する必要があると考えられます。

 

参考文献

1)高柳正樹.CPT2酵素欠損症と突然死の関連について.成育疾患克服等世代育成基盤研究事業.新生児スクリーニングのコホート体制、支援体制、および精度向上に関する研究.平成27年度総括・分担研究書 p43-45,2016

2)高柳正樹.カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ2(CPT2)欠損症.特殊ミルク情報(先天性代謝異常症の治療)52:8-11、2016

3)高柳正樹.カルニチンの臨床.生物試料分析 35:281-292、2012