※以下の記事は、埼玉医科大学 小児科・難病センターの大竹明教授が出演されたラジオ日本「教えて!ラジオクリニック」の放送を聴取して、JaSMIn事務局が作成しました。
番組名:ラジオ日本「教えて!ラジオクリニック」
《パーソナリティ》さやま腎クリニック 池田直史 院長
出演:埼玉医科大学小児科・難病センター 大竹 明 教授
テーマ:「難病とは?難病の診断と治療のために」
放送日時:2018年12月21日12:15~12:30
池田先生(以下敬称略):こんにちは、池田直史(いけだ なおふみ)です。
大竹先生(以下敬称略):こんにちは、埼玉医科大学の大竹明(おおたけ あきら)です。
池田:大竹先生は小児科の中でも、難病がご専門だということですが、先天性の難病は、生後なるべく早い段階での発見が大切ですよね?
大竹:はい、その通りです。そのために作られたものが、新生児マススクリーニングです。新生児マススクリーニングの対象となる疾患は、発病する前に発見して治療を開始することにより、患者さんの予後が大幅に改善できる、ということが第一の条件になります。すなわち、はっきりした診断法がある、それから治療法もしっかり確立している、この二つが大事です。加えて、医療経済の点では、発症頻度が極端に少ないと、経済的な負担が大きくなってしまいます。そこもスクリーニングが必要な理由の一つです。これらの背景から、日本では、1977年にフェニルケトン尿症を中心とする先天性代謝異常症5疾患で新生児マススクリーニングをスタートしました。以後、対象疾患が増えたり減ったりしながら、2014年にはかなり大幅な改正がありました。タンデムマス法という、多くの疾患を一括してスクリーニングできる方法が採用されたことにより、対象疾患が19疾患へ拡大されました。5疾患から19疾患に増えたわけです。そしてさらに、2018年4月からは脂肪酸代謝異常症の一つである、CPTII欠損症(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症)が加わり、現在20疾患を対象として行われています。すべて赤ちゃんの生後4~5日に、かかとから採血をして検査を行います。費用は自治体が負担することになっております。
池田:この検査では、どのようなことがわかるのでしょうか?
大竹:内分泌疾患、脂肪酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、アミノ酸代謝異常症、それから甲状腺の病気と副腎皮質の病気と大きく5つの疾患群がありますが、これらは病気が発病する前に見つけて治療を開始することで、発病せずに一生を過ごすことができることが知られています。発病を防ぎ、患者さんを一生無事に過ごせるような状態に保つ、それがマススクリーニングの一番の目的になります。
池田:素晴らしい取り組みだと思います。一方で、この新生児マススクリーニングの対象になっていない、先天性の難病について、何か対策があるのでしょうか?
大竹:そうですね、まさにそこが大切なところです。症状が出る前に診断して治療を開始すれば、発病を回避できる、ないしは、軽くできる、そういう病気は新生児マススクリーニング20疾患以外にも無数にございます。特に、その中でも、酵素補充療法という1~2週間に1回注射をすることで、根本に近い治療法がしっかりと開発されている、ライソゾーム病と呼ばれる病気がございます。しかし、このライソゾーム病は、国の施策としての新生児マススクリーニングには含まれておりません。このような疾患を対象に有料でスクリーニング検査を行うために、私たちは、一般社団法人のクレアリッドを立ち上げました。
池田:どのくらいの規模の団体なのでしょうか?
大竹:クレアリッドは略称でして、正式名称は「希少疾患の医療と研究を推進する会」と申します。英語では「Clinical & Research Association for Rare, Intractable Diseases」といい、英文の頭文字をとって、CReARID(クレアリッド)と呼んでおります。患者さんの病気の早期発見、早期治療、疾患の研究から患者会との連携、若手の医師の成育まで手掛ける、希少疾患のための団体です。クレアリッドで行う有料のスクリーニングをオプショナルスクリーニングといいます。このスクリーニングを関東地方から日本全国に広げていきたいと思っております。
池田:オプショナルスクリーニングは、どのような検査なのでしょうか?
大竹:方法は、新生児マススクリーニングと同様に生後4~5日の赤ちゃんのかかとから少量の血液を採って検査を行います。発病前に発見し治療をすれば「その患者さんは発病しない」ないしは「発病しても軽く済む」、そういう病気を対象としています。では、なぜ国のスクリーニングに入っていないのかというと、やはり医療費の問題があります。これは病気の発生「頻度」とつながります。オプショナルスクリーニングの対象疾患は、新生児マススクリーニングの対象になっている病気よりも、やはり頻度が低いです。そして、治療やケアお金がかかってしまいます。したがって、我々は、スクリーニングが必要と思われる病気について、公費ではなく、ちゃんと検査の説明を行い、同意をいただいたうえで、希望者の自己負担で検査を考えました。国の新生児マススクリーニングとは違い、希望により選択して行う検査(“オプショナルスクリーニング”)となります。
池田:具体的にはどのような病気がわかるのでしょうか?
大竹:現在は、酵素補充療法のような治療法が存在して、その効果が十分に立証されている、ライソゾーム病の一つである「ポンぺ病」、「ムコ多糖症I型」、それから「ファブリー病」の3疾患を対象にしております。詳しい話は割愛いたしますが、ファブリー病は、現在のスクリーニング技術では、女性の患者さんをみつけることが難しいので、男性のみを対象にしています。ポンぺ病は、発病後にできるだけ早期に治療を開始しても、どうしても重い障害が残ってしまいます。しかし、発病する前に治療を行えば、患者さんの予後は劇的に変わります。一例として、ポンぺ病の姉妹例をお示ししますと、お姉ちゃんは、発病して1か月もたたないうちに酵素補充療法を開始しましたが、車いす生活を余儀なくされています。一方、妹さんはお姉ちゃんの情報があったがゆえに、発病前に診断ができました。妹さんは、発病前に診断し治療を開始することによって、ほとんど普通の子と同じ生活が送れています。このように、頻度が低くてマススクリーニングの対象からはずれているけど、早く診断し治療を開始してあげたい、そのような病気を対象に、オプショナルスクリーニングを行っている次第でございます。また、今後は対象疾患を広げまして、他のライソゾーム病や新生児期に診断して末梢血幹細胞移植を行えば、ほとんど一生無事に過ごせる先天性の免疫不全症候群も対象に加えていきたいと考えております。
池田:このオプショナルスクリーニングは、どの医療機関でも受けることができるのでしょうか?
大竹:現在、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の一部の施設を中心に行われています。今現在で13施設、さらに準備中の施設がございまして、今後さらに増えていく予定です。これからもどんどん実施施設を広げて、少しでも多くの方が検査を受けられることを願います。オプショナルスクリーニングの詳細、実施施設については、ぜひクレアリッドのホームページでご確認ください。
池田:この流れは関東にとどまらず、日本全国に広がっているのでしょうか?
大竹:具体的に申しますと、九州地区は熊本大学が中心となり、すべての県で実施されております。それから、東海地区では藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)が中心となり、愛知県で実施されております。今のところは、クレアリッドを含め、この3地区だけなのですが、他にも、導入を考えている地区はある、と伺っております。
池田:検査の結果「病気が疑われる」となった場合、どうすればよいのでしょうか?
大竹:その場合は、クレアリッドの方から検査を受けた医療施設にすぐ連絡がいきます。私の他にも数多くの専門医とのパイプがございますので、検査を受けた医療施設の地域の専門医を紹介できるようにしております。専門医のところで、精密検査を行い診断を確定すれば、すぐに治療を開始することもできます。ただ、専門医の病院が遠く離れている可能性もありますので、治療がある程度軌道に乗った後は、地元の病院にて治療を受けられるように調整するルートを作っております。
池田:地元の病院でも、いずれは対応可能になるのでしょうか?
大竹:その通りです。
池田:オプショナルスクリーニングの対象は新生児のみ、でしょうか?
大竹:現在、クレアリッドで行っているオプショナルスクリーニングの対象は基本的には新生児となりますが、年長児や成人の方でも、希望される方は多くいらっしゃいます。そういう方は、先週申し上げました難病センターのようなところを窓口として、広く診断できるようにしておりますので、いつでもご相談いただければと思っております。つい先頃も52才のファブリー病の患者さんを診断し、酵素補充療法を開始いたしました。この患者さんは10才前より典型的な症状があったにも関わらず、その後難聴、心筋症、脳梗塞等を発症し、やっと50才を過ぎてから診断されました。もっと早くに診断され治療が開始されていたらと思うと、残念でなりません。この様な患者さんを1人でも少なくすることが私の一番の目標です。この放送をきっかけに、1人でも多くの皆様が、遺伝病を中心とする難病について理解を深めて下さればと思います。
池田:今週は「新生児マススクリーニング」と「クレアリッドで行われているオプショナルスクリーニング」についてお話を伺いました。大竹先生、2週にわたり、どうもありがとうございました。
大竹:ありがとうございました。
以上
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大竹先生ラジオ聴取報告_2回目