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JaSMIn通信特別記事No.67

作成日:2022.09.05

脳性麻痺と診断されているかもしれない治療可能な先天代謝異常症

 

母子愛育会 総合母子保健センター 愛育研究所 小児及び母性保健研究部

伊藤 康

 

1.はじめに

   先天代謝異常症の診断がつく前に脳性麻痺と診断されている子どもたちがいます。先天代謝異常症の論文報告においても、脳性麻痺の特徴が記述されていたり、非典型脳性麻痺と診断され見逃されていた事例もあります。その中には治療が可能な先天代謝異常症も実在しますので、早期に発見、診断される必要があります。本稿では、リーチ博士ら(2014年)が関連する論文を分析しまとめた報告[1]を紹介し、早期発見に役立つポイントを解説します。

 

2.脳性麻痺とは

 脳性麻痺とは、お母さんのお腹の中にいる間から新生児期(生後4週間以内)までの間に生じた脳の非進行性病変(出生前後の低酸素や感染症などによる脳障害など)によって引き起こされた、出生後における子どもの運動または姿勢の異常のことをいいます[2]。ただし、進行性疾患、一過性の運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅滞(運動能力の発達が標準より遅れている状態)は除かれます。ここで言う“進行性の経過”や、“一過性の(発作性に現れる)運動障害”は、実は、先天代謝異常症の特徴とも言えるのです。

 脳性麻痺の症状は、体が反り返りやすい、手足がこわばって硬くなるなどがあります。また、このような特徴的な症状を示さない場合でも、生後数か月から数年たって、首のすわりや寝返り、お坐り、はいはい等の時期が著しく遅いなどの運動発達の遅れで気付かれることもあります。

 

 

3.リーチ博士らによる論文検索調査[1]

 先天代謝異常症は、酵素またはトランスポーター(輸送担体)の欠損により、細胞内で起きている連鎖的な化学反応の過程で基質(原料物質)または中間生成物の蓄積や、必須化合物の合成能力の低下が起こる希少な遺伝性疾患の一つです。しばしば神経系も影響を受け、神経学的異常が引き起こされます。

 リーチ博士らは、脳性麻痺、痙性(手足を動かそうとしても、力が入ってしまって十分に力が発揮できない状態)、ジストニア(何かをしようとして、からだを動かすと筋肉に力が入ってしまい、思う通りに動かせなくなる症状のこと)、ジスキネジア(自分の意志に関係なく、からだが勝手に動いてしまうさまざまな運動の異常)、運動失調(身体がふらついたり、ことばがもつれたり、目的とする運動が円滑でなくなる症状のこと)、運動異常、歩行異常、低酸素虚血性脳症(脳への酸素や血流の不足による脳の機能障害)、周産期仮死(出生前〜直後の原因により、生まれたときに酸素不足や循環器系の問題がある状態)などの神経学的異常を脳性麻痺のキーワードに用いて論文検索を行い、そして、脳性麻痺と誤診されやすい疾患を特定するために、脳性麻痺の症状が5歳以前に出現した報告に限定し、調査しました。

 治療には、病気の原因を取り除いて治す根本治療(原因療法)と、症状を抑える目的で行う対症療法があり、通常は両者を組み合わせて治療が行われます。リーチ博士らの調査では、けいれんを抑える治療などの対症療法は含められてはいません。先天代謝異常症の根本治療としては、細胞レベルの病因を標的とし、少なくとも脳性麻痺の特徴(筋緊張異常)と認知(理解・判断・論理などの知的機能)面、行動面、そしてMRIの画像所見を改善しうる継続的治療法と、代謝性クリーゼ(緊急症)の際に悪化を食い止め、さらなるダメージを防ぐ安定化/予防的治療法が可能です。

 

 

 調査の結果として、根本的な治療法が実在する脳性麻痺類似症状を示す先天代謝異常症は67疾患確認され、13の異なる生化学的分類(アミノ酸、糖、クレアチン、脂肪酸、高ホモシステイン血症、脂質、リソソーム、金属、ミトコンドリア、神経伝達物質、有機酸、尿素サイクル、ビタミン/補酵素などの代謝異常)に区分されました。そのうち38疾患(57%)は、血液や尿中の代謝スクリーニング検査(簡単な検査法や単純な基準で代謝異常症を見つける検査)で容易に診断できるものでしたが、残りの疾患ではより特殊で、時には侵襲的な検査が必要でした。

 これら67の先天代謝異常症のうち26疾患(39%)については、背景にある主要な病因を標的とした継続的治療法(例:神経伝達物質の補充)があり、残り41疾患には継続的な治療法はなくとも、安定化/予防効果を発揮する治療法(例:緊急治療法)がありました。継続的な治療には、食事療法、薬物療法、欠損代謝産物や酵素の補充療法があり、遺伝子治療も遺伝子補充療法といえます。緊急治療法は、病気に罹患、食事量の減少、またはエネルギー需要の増加している期間中に、代謝の悪化を予防または最小化するための対応です。その先天代謝異常症においては代謝されない物質の摂取を避けながら、高カロリー栄養摂取、十分な補水、ビタミン/補酵素または薬剤の追加/増量が行われます。口から摂取できなければ、鼻から胃まで細い管を入れたり、血管に針を刺して点滴で補います。

 本稿では、5歳以前に発症し、エビデンスレベル(研究の吟味における信頼度の目安)が高い、継続的根本治療法が存在する26疾患について、病名とその治療法を表1にまとめ、紹介します。下線の疾患はJaSMInでも登録されている疾患です。発症早期に、理想的には発症前に継続的根本治療が開始されれば、病気の経過や結末を改善させることが期待されます。一方で、このような治療法が存在する疾患を見逃すことなく早期に発見し、早期治療につなげることも我々小児科医の責務といえます。

 

表1 継続的根本治療法が存在する”脳性麻痺類似症状を示す先天代謝異常症”

(5歳以前に発症)

[Leach 2014らの論文1より改変]

 

 これらの疾患において脳性麻痺類似症状とされたのは、体幹筋緊張低下(からだが軟らかく、姿勢を保つのが難しい状態)、筋緊張亢進(四肢のつっぱりやこわばりで動かしにくい状態で、痙縮と固縮という型がある)、ジストニアやジスキネジアなどの不随意運動、運動失調などの神経症状でした。代謝性クリーゼ(緊急症)で急性脳症を起こし、その後遺症による脳障害で脳性麻痺と同様の症状が見られる場合もあります。ジストニア/アテトーゼ型脳性麻痺非典型脳性麻痺非典型遺伝性痙性対麻痺などと診断されている子どもたちの中で、根本的な治療法が存在する先天代謝異常症が見逃されている可能性もあります。特に、脳性麻痺に合致する明らかな出生前後の病歴がなく、体幹が低筋緊張で軟らかく、遅れてジストニア、アテトーゼ、舞踏病などの不随意運動、筋緊張亢進、運動失調などの運動異常症が、誘発因子や増悪因子と共に発作性に現れたり、進行性に悪化している場合には先天代謝異常症の可能性を考えるべきです。2は、ハカミ博士ら(2019年)による、脳性麻痺に類似する代謝性または遺伝性疾患の可能性を考慮すべき臨床的特徴と神経画像的特徴のまとめです[3]。脳性麻痺と診断する前に、徹底した病歴聴取と慎重な神経学的評価が不可欠です。

 

 

表2 脳性麻痺よりも別の診断を検討すべきポイント

[Hakami 2019らの論文3より改変]

 

4.最後に

 驚くほど多くの先天代謝異常症が脳性麻痺類似の症状を呈しており、根本治療が存在する先天代謝異常症の約4割に、神経学的後遺症の経過や結末を改善させることが期待できる継続的治療法がありました。すでに発症しており”非典型脳性麻痺”と診断されている先天代謝異常症を早期に発見し治療することも重要ですが、発症前に早期診断し、治療につなげることがもっと重要で、適切なスクリーニング(選別)法の確立がどの先天代謝異常症においても課題といえます。

 

参考文献

1) Leach EL, Shevell M, Bowden K, Stockler-Ipsiroglu S, van Karnebeek CD. Treatable inborn errors of metabolism presenting as cerebral palsy mimics: systematic literature review. Orphanet J Rare Dis. 2014 Nov 30;9:197.

2) 産科医療補償制度ホームページ:

http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pregnant/about.html

3) Hakami WS, Hundallah KJ, Tabarki BM. Metabolic and genetic disorders mimicking cerebral palsy. Neurosciences (Riyadh). 2019 Jul;24(3):155-163.

 

全文PDFは以下からダウンロードできます。

JaSMIn通信特別記事No.67(伊藤康先生)