「10周年を迎えた先天代謝異常症患者登録制度(JaSMIn)」
一般社団法人「日本先天代謝異常学会」前理事長
埼玉医科大学 ゲノム医療科
奥山 虎之
先天代謝異常症は、個々の疾患の患者数が非常に少ないいわゆる超希少疾患の総称です。近年の医療の進歩により、欧米を中心に先天代謝異常症の治療法の開発が急速に進んできました。ライソゾーム病の酵素補充療法製剤などは、その代表的なものですが、最近では、ライソゾーム病以外の先天代謝異常症の新薬の開発も進んでいます。
医薬品の開発においては、その有効性と安全性を検証する臨床試験を実施する必要があります。これを治験といいます。科学的に十分なデータを集めるためには、一定数の被験者となる患者さんが必要になりますが、先天代謝異常症は、個々の疾患の患者数が非常に少ないため、一つの国で十分な患者数を集めることは容易ではありません。そのため、複数の国や地域の患者さんに同時に一つの治験に参加してもらういわゆる国際共同治験が実施されることが多くなってきました。しかし、この国際共同治験に日本も参加するためには、国内の患者さんで、当該医薬品を必要とする患者さんがどこに何人おられるのかといった基本的なデータが必要になります。
日本先天代謝異常学会患者登録制度(JaSMIn)は、このような必要性を考慮して作られた制度です。JaSMIn の名称は、Japan Registration System for Metabolic and Inherited Diseasesに由来します。当初は、厚生労働科学研究費補助金難治疾患政策研究事業などの支援を受けてシステム開発などの基盤整備を行いました。現在では、日本先天代謝異常学会の患者登録委員会が管理・運営しています。
この患者登録制度の特徴は、患者さん本人あるいはそのご家族の方に自発的に登録に参加して頂くSelf-Registrationを基本としています。登録内容は、極めてシンプルで、氏名、住所、病名、現在およびこれまでに受けた治療内容に限定しています。
患者登録は、2013年から開始しました。登録者数は、2023年9月現在で、1788名です。15疾患群で70疾患以上の登録があります。登録データを用いた研究成果も多数あり、学会あるいは論文として発表されたものも少なくありません。実際に、新薬の治験の基礎データとなった研究成果もあります。また、ホームページでは、各種患者会の活動情報や学会員による最近のトピックスの掲載を続けています。このホームページが、学会と患者さんをつなぐ架け橋となっています。
日本先天代謝異常学会患者登録制度(JaSMIn)は、登録を開始してから、10年が経過しました。この制度の維持には、事務局がある国立成育医療研究センター遺伝診療科のスタッフの献身的な努力があります。この制度を確立したものの一人として、感謝いたします。そして何より、この患者登録制度の重要性をご理解いただき、登録していただいている患者さんとそのご家族に感謝します。これからもこの制度がますます発展することを心より願っております。
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