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JaSMIn通信特別記事No.32

作成日:2019.07.02

ゴーシェ病に対する新規治療法開発の現状

 

鳥取大学医学部 脳神経小児科 成田 綾

 

1. ゴーシェ病とは
 ゴーシェ病はライソゾーム病のひとつです。ライソゾームとは、細胞内のごみ処理・リサイクル工場のような働きをしており、内部に約60種類の酵素が詰まっています。細胞内の老廃物などはライソゾームに運ばれ、これら酵素によって分解され、再利用されていくので、ライソゾームは私達の体のバランス(恒常性)を保つのに非常に重要な器官です。

 ライソゾーム病は、このライソゾーム酵素が生まれつき欠損・低下していることが原因で、分解されるべき物質が溜まる病気の総称で、ゴーシェ病では、酸性β-グルコシダーゼの活性低下・欠損が原因で、糖脂質がマクロファージなどに蓄積し、発症します。症状は、大きく分けると全身症状(肝臓や脾臓が腫れる、貧血、血小板数の減少、骨症状)と神経症状(けいれんやぴくつき、発達の遅れや退行など)です。日本では100~120名ほど患者さんがおられ、そのうちの約60%が全身症状と神経症状を合併する神経型(2型、3型)患者であると推定されています。なお、海外では全身症状だけで神経症状を合併しない非神経型(1型)が90%です。

2. ゴーシェ病の治療法開発

 現在、わが国で承認されているゴーシェ病の治療は、酵素補充療法(イミグルセラーゼ、ベラグルセラーゼアルファ)と基質合成抑制療法(エリグルスタット酒石酸塩カプセル)ですが、これらは十分に脳の中へ入っていくことが出来ない性質であるため、日本人に多くみられる神経症状に対して有効性が乏しく、新規治療法の開発が求められています。

 点滴しても脳に入っていかない酵素製剤を頭の中に直接投与(脳室内投与や髄腔内投与)する治療法は、他のライソゾーム病で試みられています。欧米では神経セロイドリポフスチノーシス(CLN2)に対して脳室内投与用の酵素製剤が承認されました。また、ムコ多糖症II型(ハンター症候群)や異染性白質ジストロフィーでも治験が行われています。さらに、脳内に入っていけるように工夫を施した酵素製剤の開発も同様に他の疾患で始まっています。これらの開発が、今後ゴーシェ病に対しても応用されることが期待されます。

 基質合成抑制剤で、脳内に入っていくことのできる薬剤開発も進められています。ベングルスタットという薬剤を神経型ゴーシェ病のモデルマウスに投与したところ、溜まり物質の減少とともにマウスの記憶力に改善が認められたとする報告があり1、現在、成人の神経型患者さんに対して治験が実施中です。また、ゴーシェ病のキャリアのパーキンソン病患者さんに対しても同様の薬剤を用いた治験が開始されており、結果が待たれます。

 

 これらの治療に加えて、シャペロン療法の研究が進められています。シャペロンとはフランス語で付き人や介添人を意味します。シャペロンは体の中で何の付き人をしているのでしょうか?実は、患者さんの体内で作られる酵素タンパクをサポートしています。私たちの体内では日々、沢山のタンパクが合成されています。正常なタンパクはタンパク分子が正しく折り畳まれること(フォールディング)が重要です。シャペロンは、このタンパクの折り畳みの時に、酵素タンパクに「付き添って」正常に折り畳まれるように働いています。分子シャペロン(例:熱ショック蛋白)は私たちの体内にもともと存在しているものです。薬理学的シャペロンは、飲み薬として体外から摂取します。

 

 

 ゴーシェ病では、分子シャペロンの働きをさらに増強するような化合物の基礎研究が行われています。また、私たちのグループでは薬理学的シャペロンの研究を行っており、これまでにアンブロキソール塩酸塩という去痰剤(痰を柔らかくして出しやすくする薬)の成分を用いて神経型の患者さんに投与し、安全性と有効性を検討してきました2。この臨床研究の結果を踏まえて、日本中どこにいても処方を受け、治療を受けられるようになる事を目指して、2019年5月より医師主導治験を開始しました。治験に関する情報は、以下のページをご覧ください。

公益社団法人 日本医師会 治験促進センター 臨床試験登録システム(JMACCT CTR)https://dbcentre3.jmacct.med.or.jp/JMACTR/App/JMACTRE02_04/JMACTRE02_04.aspx?kbn=3&seqno=9301

 

 治験は多くの場合、製薬会社によって行われますが、JaSMInの対象となっているような患者さんの数がとても少ない病気(稀少疾患)はビジネスとして成立しにくいことなどから、なかなか開発が進みません。また、治験が開始されても、その治験の対象になる患者さんがどこにお住まいで、どのような状態におられるのか、速やかに把握する方法が、わが国にはまだ整備されていません。その為に立ち上げられたのが、このJaSMInによる患者登録制度です。一人でも多くの患者さんがJaSMInにご登録頂き、自分やご家族の抱えておられる病気に対する最新の知識や治験情報を自ら入手し、治療法やより良いQOL(日常生活の質)を手に入れていくために活動していくことが大切であると思っております。引き続き、ご協力をお願いいたします。

参考文献

1)Sardi SP, et al. (2017). Proc Natl Acad Sci USA 114(10): 2699-2704.

2)Narita A, et al. (2016). Ann Clin Transl Neurol 3(3): 200-215.

 

全文PDFは以下からダウンロードできます。

JaSMIn通信特別記事No.32(成田先生)